彩り開花 ( 1 / 3 )
思えばあれは多分、ヒトメボレ、ってやつで。
…そんな、俺とあの人のはなし。
もともと中学、もっと言えば小学校の頃から、バスケットと同じくらい算数が好きだった。算数なんて、言ってみれば数字のパズル。頭を動かすことが好きな俺にとってはカンタンなコトだ。継続して、中学でも一番トクイだったのは数学だし、テストで100点なんて正直、数えきれないくらい。
だから高校の数学の授業にも、少なからず期待はしていたし、ここのガッコの数学の先生は人気らしくて、最初の数学の時間をウキウキして待ち構えていた。
「きりーつ。」
がらがら。
教室の前の方の引き戸の音に合わせて、クラスで最初の週番が何ともやる気のなさそうな号令をかけた。
俺が待ちに待った時間だというのに、どうやら彼はやる気がないらしい。
「どれ、可愛いコは居るかね…」
ちらり、外した視線を再び前に戻すのと同時。
低く掠れた声が教室を沈めた。教卓に君臨したのは、やけに図体のでかいオッサン。化学の先生でもない(はずな)のに、白衣を羽織っている。
「はい、挨拶」
お願いしまーす、とクラス中が頭を下げた。各自ガタガタと席に着き腰を落ち着けた頃、教室がザワついてくる。
俺もその大多数の内のひとりで、ちょっとわくわくしながら腰を下ろした。
やっぱり、運動部に所属(希望)する身としては、ああいう、むっきむきの身体には憧れるワケで。まじまじと観察してしまう。
「えー、数学の藤高です。」
「せんせー!ホモってほんとーですかー?」
「ほんとーですよー」
するとふたりの会話に、どわっ、と教室が湧いた。
不意討ちの生徒の言葉にも、躊躇う素振りをひとつも見せず、先生はしれっと言ってのけた。
そう。昨日、小耳に挟んだけど、どうやらこのオッサン、あんなガタイのくせに、オトコノコが好きらしい。日頃からホモ発言連発で、カワイコちゃん(男子)に目を付けてはペロリ、というウワサが。
…さすがにそれはウソなんだろうけど。
そんなディープなウワサが流れているにもかかわらず、このオッサンは人気者。ノリが良くて、生徒のことをよく分かってくれる、ってことらしい。
- 1 -
≪ ≫