濃紺に星 ( 2 / 3 )
「…何だ?別れ話か?」
先生は顔を上げずに、言う。
なんだかくたびれたような声で。
「…違うよ」
「そりゃなあ、あんな態度取られたら嫌にもなるよなあ」
「…違う」
「じゃあ何なんだよ!」
びく、と。
いきなりの大声に肩が震えた。
先生は、髪の毛を掻き乱している。
「…先生…?」
「……普通に高校3年過ごして、大学行って、女見つけて、子供作って、幸せな家庭ってヤツを築けばいいだろ」
口に氷でも含んでいるのか、ってくらい、先生の声は冷めていた。
「…お前には、綺麗なままでいてほしい」
…これなんてプロポーズ?
そんな雰囲気ではないが。
という軽い小ボケをかませるくらいには落ち着いていた。脳ミソの7割程度は。
「…じゃあ」
その冷静な7割が言葉を紡ぐ。
あとの3割。
俯く先生が哀しくて。
抱き締めてしまいたくて。
たくさん、キスしたくなって。
7割がそれを抑えこんで、言葉を紡ぐ。
「中途半端な、愛し方するなよ」
衝動的な俺の告白を、先生は受け入れた。愛の仕方を教えてくれた。
ハタから見たら気の迷いでも、若気の至りだとしても、それでも俺は、幸せだった。
ゆっくりと、先生は顔を上げる。微動だにせずその視線に答えたけれど、先生はまたすぐに項垂れてしまった。
「別に愛してなんかなかった、けど、な」
途切れた語尾が、ちくりと胸を刺す。
たとえ勘づいていたとしても、直接先生の口から聞くとさすがに動揺した。
- 20 -
≪ ≫