漆黒へ落下 ( 2 / 3 )
......
「彰太ー!部活行かねーの!?」
「プリント出してから行く!」
普段は、6時間目の終了と同時、体育館へダッシュする俺。
しかし今日は、そういうワケにもいかず。
数学の授業で使った、クラスの人数分のプリントを職員室まで届けに行かなくてはならないのだ。
…藤高先生の、命により。
正直、今日は行きたくない。もう、あんな顔は見たくない。
状況が読めた今なら、きっと、泣いてしまうから。
けれど先生が俺を名指しにした以上、任務は遂行しなくてはならないだろう。
…行くしか、ない。
意を決して、教室を出た。
放課になった廊下は騒がしく、人通りも多い。ぶつからないように人混みを掻き分け、階段を下りる。
階段を下りたら、職員室はすぐそこ。
ドアの前で一旦停止、深呼吸。
…よし。
意を決して、オープン・ザ・ドア。
(………あれ)
戸を開けてすぐの、先生の席。そこに彼の姿はなかった。
もう部活に行ったのだろうか。ただトイレに行っているだけとか、生徒と喋っているとか、大したことではないのだろうか。
いずれにせよ、今の俺の心持ちとしては、顔を合わせなくて済むのは好都合である。
先生の広い机にプリントの束を置き、職員室を出た。
…と、その時。
息が詰まった。
前方から迫ってくる真っ白いそれが、やけに眩しかったから。
何だかとてもスローモーションな世界の中で、俺は身動きできずにいた。
近づいてくる。
そう思った時には、もう目の前に先生が立っていて。
チラリと目線をくれる。
だけどそれは一瞬、すぐに俺の目には先生の背中が映った。
スローモーションが、ぷつりと切れたように。
熱くて冷たいものがひとつ、頬を伝った気がした。
......
先生は部活に来なかった。
良かったと思った。
ホッとした。
そう思った自分が、嫌だった。
「……あーあ」
結局やる気も起きず、嵐さんには適当に、具合が悪いからと言って部活は早退した。
部活を休むなんて、俺史上、初めての出来事だ。
薄暗くなり始めた部屋で、ひとり、テーブルに突っ伏す。
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