藍と愛 ( 3 / 3 )



…うわあ、俺。

嵐さんにもそんな風に見られてたのか。しっかりしないと。
高校三年の男子にしては小さい、彼のその背中を眺めつつ、ため息を溢した。

「先生!次の試合なんですけど」
「おお、だいたい組んでみたけどよ、こんなんでどうだ」
「…あー、俺がこっちに入る…無くはないっスね」

遠くで、先生と嵐さんの声が聞こえる。会話の内容からして、練習試合のスタメンや戦略の話をしているんだろう、普段は先生をオッサン呼ばわりにする嵐さんも、部活中は「先生」で敬語。
部員と顧問、それは俺も同じ。
けれど、今の俺と先生には無い、嵐さんと先生の、遠慮無しに縮まったその距離感が、羨ましかった。




......




正直に言おう。

俺のここ最近の調子の悪さの原因は、先生の態度を気にかけすぎ、ってところにある。
先生と生徒が付き合う(しかも男同士)のがまずいのは分かる。だから、学校の中で必要以上に接触しないようにするのも分かる。

だけど。

先生は最近、余りに俺によそよそしい感じがしてならない。それでいて、同じクラスのヤツ、先生のクラスの先輩、バスケ部員等々、とは楽しげに話している姿をよく見かける。ここまで徹底してしまうと、逆に怪しいんじゃないのかと思うけど。
あるいは、俺が一方的に気まずいと思い込んでいるだけで、イザ話してみれば大したことはないのかもしれない。

そうだ。
そうに違いない。

半ば無理やりに自分に言い聞かせて、先生の姿を探した。周りに人がいなければ、ちゃんと相手をしてくれるはず。

いつもみたいに。



「先生!」

似合わないジャージの広い背中。

反応しない、広い背中。

やけに心音のボリュームが高い。

…いやになる。


「…先生?」

ようやく隣に並んで、俺の目線よりも遥かに高いところにある先生の顔を見上げた。

覗き込んだその視線はまるで、そこらの通行人でも眺めるかのような。
少なくとも、それは「恋人」に送られるような眼差しではない。

「…なんだ」
「………えっと」

かける言葉を見失った。
こんなに「人と話す」ということに躊躇いを覚えたことはない。

「…なんだよ」
「…や、あの…」


「何もないなら」

肩越しの目に刺される。
まばたきもできす、ただ阿呆みたいにその目を見ていた。



「話しかけんな」


涙腺という涙腺を破壊されたかのように。
涙の一滴も、出てきてはくれなかった。

広い背中は、遠かった。






───…藍と愛.





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