真っ赤に熟れる ( 3 / 3 )
…俺がメシ食ってるときには、居なかったと思ったのにな。
昼メシの間にも、広い学食内に視線を巡らせていたけど、どうやら見逃していたみたい。
校舎とは別館になる学食に向かって真っ直ぐに伸びる廊下で、その彼と鉢合わせになった。
「お、いたいた」
まるで俺を探していたかのような口振りで、ポケットに両手を突っ込んだ先生が、悠然と歩いてくる。
「お前、今、時間あるか?…あ、昼練か…」
俺のジャージ姿を見て悟ったんだろう先生は、ふうん、と唸った。
「え、あ、いや、大丈夫、ですよ」
…もともと、そのつもりで来たし。
「そうか、じゃあ、ちょっとついて来い」
俺が了解すると、ヒラリ、先生は膝近くまである長い白衣を翻して、廊下の先の、教材室と書かれたプレートが掛けられた教室に入っていった。先生に遅れないように、俺も後を追う。
一歩踏み入れるとそこは、使われてません、って雰囲気が満載で、何だかホコリっぽかった。
「せんせ─…ん、っ」
…これで何度目?…2度目。
完全なる先生ペースを奪回しようと呼び掛けた瞬間、俺の声は先生の唇に飲み込まれた。
本当にすぐ近くで、目が合う。
「口が、寂しいんだよ」
そう言ってさりげなく俺の身体を引き寄せる先生の身体には、ほんのり、タバコの匂いが染み付いていた。ヘビースモーカーの証拠。
「…タバコ、吸いに行けばいいじゃん」
「…嫌か?」
…なんだ、ソレ。
そんなの、卑怯だ。そんなこと、言われたら。
「……イヤじゃ、ない…」
熱くなって俯いた顔を、先生の大きな手で上に向かされると、すぐ近くに先生の顔があって。そのまま、唇を支配された。
「…舌、入れンぞ」
もう既にいっぱいいっぱいで、返事すら出来なくて。先生は俺の了承を待たずに、もっと深く唇を繋いだ。
…こんなつもりじゃ、なかったのに。
恋人同士なの?って、ちゃんと確かめるつもりだったのに。
どうして俺にはちょっと素っ気なくて、俺以外とは仲良しなの?って、ちゃんと訊くつもりだったのに。
「…彰太」
先生の声に、唇に、流されて。
…もう、いいか、どうでも。
───…真っ赤に熟れる
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