桃色キス ( 3 / 3 )



…俺も腹減った。なに食うかな。

「彰太ー?俺らもう行くよー?」

もはや顔見知りになりつつある学食のおばちゃんの顔を浮かべながら、ワイシャツのボタンを閉めていると、1年の部活仲間の声が。

「あ、俺カギ閉めるからいーよ!行ってて!」
「おっけー、おつかれー」

おつかれー、と見送ってズボンに足を通した。
…まあ、独りになると、いろいろと考えてしまうもので。

今日わかったこと。
先生は、ジャージが似合わない。
オッサン顔だからかな、ツナギとか作業服とかの方が似合いそうな感じ。

部活中は何も接触しなかったな。
や、なんかあんなこと言ったし、気まずい、とまではいかないけど…こう…ほら、俺、純情だからね?うん、どうしたらいいか分かんないのよね?

…そこまで考えて、自分のテンションに引いた。きもい、俺。

さっさとベルトをしめて、ネクタイもしめて、上着を羽織る。鞄を背負い、部室のドアをきっちり閉めてカギをかけた。

「ありがとうございましたっ!」

練習できた感謝を込めて、体育館を出るときも挨拶は忘れない。

…あー腹減った。早く学食行こう。



「おせーよ」

…デジャヴ?
体育館を出てそこに居たのは、ジャージの似合わないあの人。

「おっ、お疲れ様です!」
「おー」

どきどき。
何て言えばいいか分からなくて思わず叫んだら、また笑われた。
彼、藤高先生は、そのゴツい手でアゴヒゲを撫でた。

「せ、んせい!」
「はい、なんスか」

「今朝言ったやつ、あれ、ほんとですか!?」

どきどきどきどき。
今まで、バスケの試合とか、人生で初めてコクったとき(女子、に)とか、どきどきした時ってのはたくさんあった。

…俺史上、最どきどきです、今。

なんでだろ。
普通に、俺、おんなのこしか好きになったことないのに。
…なんでだろう。

先生が近づいてくる。
うわ、うわ、と思っているうちに、もう目の前!ってところに、先生の顔。思わず目を瞑った。



ちゅっ



「…え、」

超至近距離で目が合った。
しばらくご無沙汰していた唇の感触(女子とオッサンの差はあれど)が、ふんわりと残っている。

「…せ、せんせ、」

「いいんだろ?」

…にい、と口角を上げた先生の顔に、見とれた。

自分でも、よく分からない。
こんなにどきどきしたのは初めてで、しかも相手はオッサンで。
分かんないけど、いっこだけ、大きな事実。

「よ、よろしくお願いします!」
「…はいよ」


せんせいと、ちゅー、しました。




───…桃色キス





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