彩り開花 ( 3 / 3 )
「嵐さん、雅紀さん、こんちは!」
「はいこんちは!」
部長で3年生の嵐さんは眩しいくらいの笑顔で返してくれた。
2年生なのに、3年生にも劣らないくらいバスケが上手な雅紀さんは、無表情でペコリ。
そんな雅紀さんを、嵐さんは「お前、愛想わりーな!」って大笑いしてる。
そんなふたりは、制服姿。
……?…何か、変。
「…あれ、ネクタイが…?」
うちの学校は、俺ら1年は赤、雅紀さんら2年は緑、嵐さんら3年は青、と、学年カラーが決まっていてジャージや上靴、ネクタイ等に適用されている。
それなのに、雅紀さんは3年カラーの青、嵐さんは2年カラーの緑のネクタイをしている。
…道理で違和感あるワケだ。
「あ、や、その…コレ、は…」
俺が指摘すると、嵐さんはあからさまに焦ったカオをした。言葉もしどろもどろ。
…雅紀さんは、相変わらず無表情だけど。
「それは、ふたりはらぶらぶだからデース」
その時、ふたりの間から3年の先輩が顔を出した。
がしっ、と嵐さん雅紀さんふたりの肩を掴む。
「あ…武市さん、こんちは!」
「はい、おれたちはお着替えするので、1年子はボールを出しましょう。」
「あ、はいっ」
副部長で3年の武市さん。
淡々とした口調で言うと、ふたりを連れてそそくさと部室の方へはけていく。
嵐さんの「武市お前バカ!」って武市さんを罵る声が僅かに体育館に響いていた。
とりあえず、俺は言われた通りに部活の準備をすることにする。
用具庫の重い扉を開け、ボールかごやら得点板やら、昨日の練習で先輩たちが使っていたモノを探してみる。
『らぶらぶだからデース』
ふと、武市さんの言葉がよみがえった。
…そか、付き合う、と、ネクタイ交換とか、するのか?
…男子校って、すげーや。
ガラガラとボールかごを引く。
まだ、先輩たちは来ていない。
…うってみたいな、シュート
ひとつ、ボールをかごから拾って。
…構えて。
…すぱんッ
「よしゃっ!」
久しぶりにしては上出来すぎるくらい。キレイに決まった。
「おぉ、ナイシュー」
…うおぉおっ!
出掛けた声はどうにか胸の中に仕舞い込んだ。
先輩に見つかったら気まずいことこの上ない、そう思って凄く焦ったのだけれど。
学生にしては低すぎる逞しい声とよく響く拍手。
…振り向くと、そこには。
「…お前、バスケ部だったんだな。俺、顧問だからよ」
彼─数学教師、藤高先生は、昨日は出張でよ、とガシガシと頭を掻いた。
…この時、俺は確信した。
先生は、うちのクラスの数学の先生で、バスケ部顧問。
狙ってもいないのに、この偶然。
「ヨロシクな、辻本」
…これはきっと、運命、ってヤツ、だ。
───…彩り、開化。
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