ささやかな約束は消え失せた






はっ、はっ、微かにシンクロする荒く短い呼吸。暗闇で背中に僅かな温度を感じた。
こめかみを生温いモノが伝う。拭う気にもならなかった。
潮風が刺さる。冷たい。

「…しげさん」

ぽつり、それはまるで、あかりを灯したようだった。 じわりと足元が照らされたような気さえした。
それに応えようと口を動かしてみるが、何度やっても、喉の奥をひゅるりと風が通り抜けるだけ。
こめかみを生温いモノが伝う。
ぽたり、赤いしるしが出来た。

「……はあ、ぐあい、わるい…」

息苦しいのか、言葉が小さく途切れている。
ひゅるり。
声は出ない。

「…あーあ、おれの、しげさん、キズモノに、しやがった、なあ…」

ばららららっ。
マシンガンか何かの銃声か。えらく耳障りだ。今まで、BGMの如く聴き流してきた音だというのに。

「うるさい、なあ…。ヤッちまう、ぞー…こらぁ…」

酔ってんのか、って口調で呟く。そのうち、衛の喉にも、ひゅーひゅーと風が吹き始めた。
…なーんつって。
弱々しい笑いが響く。
星がきらきら、うるさい。

「…あー、シゲさーん」

あん?
言ったつもりで、顔を上げた。
ひゅるり。
声は出ない。

「たぶん、おれ、しんじゃうとおもう、よ」

だろーな。
身体じゅういてーし。
血だってどろどろだし。
俺でこうなんだからお前も同じ、だろーな。

ひゅるり。

全部、消えた。

「…けど、ぜってー、あいつらなんかに…さわらせねー…おれにも、しげさんにも」

すうっ。
星がひとすじ流れていった。
願いなんか一つしかないのに。聞いてもくれず流れていった。

「…しげさぁん、」

背後の衛は、もはや自らの身体も支えられない俺の肢体を支えながら、甘えるように、静かに、乾ききった俺の唇に口をつけた。

「だいすき、だったよ」

ずるり、ずるり。
奈落まであと数メートル。
コンクリートに赤黒い足跡が浮かぶ。
いつか見たふたりとは程遠い、汚れ疲れきったその姿が水面に映った。
背景は、満天の星。
最期の舞台には十分すぎる。

「しげさんに、あえてよかった」

…おれも。
……よかった。

答えたくとも声は出ない。が、言葉はなくとも衛には伝わったはずだ。
ぐらり。
視界が、身体が、歪んでいく。ひどくスローモーションな世界の中で、衛のくたびれた笑顔が鮮明に映った。
暗く冷たい闇の中へ。
怖くはない。

ちいさな手を握った。




lament.



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だいぶイミフ。
イメージはラメント/雫/あさき。




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