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俺が思わず、嫉妬心を口走ってしまったあの日のセックスを最後に、3日が過ぎた。別に毎日欠かさずヤリ倒していたのにというワケではないが、シチュエーションがシチュエーションだっただけに、落ち着かない。メアドやケー番も分かってはいるが、いつの間にか成立していた、連絡は朔哉からのみで、俺からの連絡はしないというルールがきいている。迂濶に電話して絶ち切られたときのことを考えると、携帯電話は開けない。あの時の冷えきった目が蘇る。
ふと、思い返す。
始まりはピカピカの高校一年生。まさか同性に惹かれるだなんて思ってもみなかった。
一目惚れだった。
何人もの新入生の中で、抜群の顔立ちをしていた奴は、たいそう目立っていて、どうしようもなく気になった。近づきたいと思った。そんな折、同じ中学だったという奴から聞いた話。
あいつは、男女問わず食い散らかすらしい。
奴の話は本当だった。顔が好みなこと、噂を聞いたことを伝えると、朔哉は不敵に口角をつり上げて微笑んだ。
『試してみる?』
女に突っ込んだことはあっても男に突っ込まれたことはなかった当時、それはそれは痛くて痛くてたまらなかった。
だけど。涙に滲む目に映った彼が、あまりにも美しかったから。
『…クソ痛い』
『そのうちヨくなるから』
『……そのうち、って』
『仲良くシよーぜ、充くん』
興味本意な一度の交わりだと思っていたのは、どうやら俺だけだったらしい。
身体の相性が良いだとか、俺の顔が綺麗だとか、いつもうまく言いくるめられて抱かれていた。抱かれるたび、奴の言う通り痛みが快感に変わっていき、気付いてみればこの有り様だ。溺れているのは俺の方。
奴には、俺以外の身体の相手も沢山いる。
それでもいいから、朔哉の傍にいたい、朔哉に抱かれていたい、そう思ったのは、俺。
渦巻くは、醜い醜い嫉妬心。
「あんたなんか大ッ嫌いだからな!」
と。
突如響いた声にふと我に返った。しぃん、と騒がしい食堂が一瞬で静まる。
叫びの主は、今年入学した特寮生のようだ。そしてその相手は、
「……朔哉…?」
一年生は食堂を飛び出していく。朔哉だけがそこに取り残された。
遠くから見えたその顔が、緩い微笑みを湛えていて。
酷く胸騒ぎがした。
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「合 コ ン い く ぞ」
まるでギラギラしたその目は以前のAV談義の時の輝きに似ている。しかし、あまりに突拍子もないその発言に俺は目を見開いた。
「は?なに、急じゃん」
「お昼にヨコジョの1、2年と話つけたんだもんねっ!みーんな上玉っ!」
「ヨコジョお!?何だよ、なんでお前がそんなパイプ持ってんだよ」
「はっはっはぁ…熟練ナンパ師ナメんなよお…!」
ヨコジョ、すなわち横山女子高校。偏差値的に言えばウチに少し足りないか、くらいのお嬢様学校。顔面偏差値だってなかなかのモノだ。
女子に飢えた男子校生徒は、歓喜していた。
「そこでだ、充くん。」
「…なんだよ」
「お前の力が必要だ。」
がしっ、肩を掴んで自称熟練ナンパ師は言う。
「勝負は4対4、これは負けられない戦いだ。俺とユウ、そして充、昌也くんの力を借りたい」
「………え、昌也も?」
「イケメンで固める為だ。」
1に勉強2に勉強、以下省略の合コンイコールに結びつきづらい昌也をチョイスしてきたのは意外だったが、顔チョイスだと言われれば納得だ。
正直、気乗りはしないが、たまには良いかな、と思っている自分もいる。
「昌也、本当に行くのか?」
「…たまには良いだろ、お前も、」
『…気分転換くらい、してみたらどうだ』
…どうやらこいつには、俺のお悩みもお見通しらしい。
合った視線は相変わらず無表情そのものだった。
「…わかった、行く」
「よっしゃあああ!勝利かくてーい!!」
合コン、なんて。
朔哉と遊ぶようになってからずっと、行っていなかったことをふと、思い出した。
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