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神野 朔哉。
さらさらの金色の髪、整った顔立ち、すらりと伸びる身体。奴が歩けば女でなくとも振り返るだろう。オマケに学業成績は一学年首席。つまりは完璧超人。しかもあの大企業、冴樹グループの息子と近しい友人だという。一体何者なんだろうか。
肝心要の中身の方はというと一言で言えば自由奔放。授業だって我が物顔でサボり散らしている。くせに、勉強が出来るところが最高に気に食わない。悔しい。羨ましい。しかしまあ、そのサボりを共に出来ることは、喜ばしい限りであるのだが。
奴は自分の事を語りたがらない。から、詳しいことはわからない。
それがまた、悔しい。
どうせ訊いても答えてはくれないのだ。
「教えない。」
…ほら見ろ。
すっかり見慣れた、きゅっと上がる口角が憎たらしい。それがイケメンなのが、また憎たらしい。
…憎たらしい。
「…別にいいだろ、実家どこ、って聞くくらい」
「だーめ。」
いくらあたたかい室内と言えど、剥き出しの肌ではさすがに肌寒い。いい加減に服でも着ようかと思ったが、身体がだるくて布団を被って終わりにした。
世の中の男女が騒ぎ出す、聖なる日まであと僅か。朝のニュースのお天気お姉さんが、当日のホワイトクリスマスも期待できそうだと言っていたのを思い出した。
さむい。そんな12月。
「名前」
「神野朔哉」
「誕生日」
「教えない」
「血液型」
「教えない」
「…趣味」
「セックス」
…最低だ。この野郎。
何も躊躇うことなく真顔で言ってのけたこいつ。一応、想定内の答えではあるが、あらためて本人の口から聞くと、呆れた。
「あ、間違った」
「…何がだよ」
「趣味、」
今度は何を言うんだ、とげんなりしていたら、またこいつは、得意のニンマリ笑いを浮かべて、言う。
「充と、セックス」
充が一番きもちいい、なんて呟きながら。
「…嘘」
「ほーんと」
「…嘘だね」
別に嬉しくなんかねーし。なんて、巷で話題のツンデレなんつうモノを発揮しつつも、気を抜いたらニヤけてしまいそうだと布団を更に頭まで被ったのに。
奴が。
無理やり。
「嬉しいくせに」
キスなんかしやがるから。
変な期待が沸いてくる。
会って。
話して。
キスして。
抱き合って。
それで満足していた筈なのにいつの間に傲慢になったのかもっともっとと、朔哉を求める俺が居る。
「……ク、リスマス」
どくどく。
息がつかえそうになるくらいに、心臓が大きく鼓動しているのがわかる。
「…会いたいんだけど」
クリスマスに会う約束をこぎつけるなんて。
まるで。
「だーめ」
一瞬だけ無の表情になったかと思うと、つぎの瞬間にはいつもの笑顔だった。
「そんなの、恋人同士みたいじゃん」
わかっていたのに。
わかっていた筈なのに。
何故か直視はできなくて。
思わず背中を向けた。
「…充、もう一回」
朔哉は全く気にする素振りも見せず、再び俺の身体を撫で始める。
頭では許容していなくても、慣らされた身体は自然に朔哉の方に向いていた。
当たり前のように、舌を絡ませ合う深いキスをして、お互いの背中に腕を回す。
きゅっときつく抱きしめて、肩口に顔を埋めた。
ふわり漂う、彼の香りに惑う。
それはまるで魔法のように。
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