「別れました。」

「え、」
「ちょ…」
「まじ?」

俺の唐突な報告に、暇さえあれば合コン合コンと、年中発情期の男子高校生3バカは面白いくらいに狼狽えた。回りにいた生徒の耳にも届いたようで、教室が軽くざわつく。それほど有名だったのか、とまるで他人事のように思えた。

「別れた、って、朔哉と?」
「他に誰がいるんだよ」
「え、上手くいってんじゃなかったのかよ」
「フラれたよ、見事に」
「…そっか、そっか」

あんなにたくさん泣いたからか、涙ひとつ出ずカラッと話すことができた。3バカはぽかんとした顔でこちらを見ている。

「よし!そーゆう時こそ合コンだぜ!!」
「そうだ!!弔い合戦だ!!」
「待て、死んでねーぞ」
「俺も行くぞ!この間、ヨコジョを逃したのは痛かったからな!今度こそ行くぞ!」
「ああ、お前あの時いなかったもんな」
「お前なんかいてもいなくても、ヨコジョの女なんか無理だっつの」
「ああ?てめなんつった?」
「そんなユウくんはお持ち帰りしてますからね」
「ああ!?ユウてめぇ!そんな奴は来るな!!しっしっ!!」

必死すぎるくらい必死な三人に思わず吹き出した。俺につられたのか、他の三人も笑い出す。
こんなに声を出して笑ったのは久しぶりかもしれない。

「新しい恋見つけよーぜ!」
「「「おおー!!」」」

「あ、わりい」

3バカ改め俺を加えた4バカが決意を新たに盛り上がっているところに、生粋の真面目っ子が割り込んできた。

「こいつ先約あっから」

ぽん、と頭に手が置かれる。思わず振り返って、その顔を見上げた。
いつもの無表情で立つ、昌也と目が合ってしまった。

「放課後、付き合って」


====


本屋に行き、CDショップに行き、洒落た喫茶店で一息ついてみたりする。
これじゃあまるで。

「…どういうつもりだよ」

…ちょっとしたデートじゃねーか。
カップを口につけながら、先ほど購入したらしい参考書か何かを眺めていた昌也は、チラリとその目だけを俺に向けた。

「…どう、って」

かちゃん。
カップとソーサーが優しくお互いを触れ合った。

「デート、だろ」

そして、その冷めた顔にはまるで不釣り合いな単語が飛び出す。
昌也は何事もなかったかのように参考書に視線を戻した。
別に、デート自体は初めてではないのだが。そりゃ、男とのデートっつうモンは初めてだけど。
朔哉とデートなんかあり得ないことだったから。

思い出すまいとしていたのに、ふと頭に浮かんでしまった。昌也に悟られないように無言でカフェラテをすする。

「ンだよ、ガリ勉のくせに…」

ああやってスカしてはいるが、どうせデートの一つもしたことがないのだろう。勉強ばかりしてきたはずだし、浮わついた噂も聞いたことがなかった。

「…ガリ勉だけど」

ぱたん。参考書をとじて、カップをくいと傾ける。中身は空になった。

「お前が余計なことを考えて、暗い顔をしなくて済むようにしたいとは、思っているんだが」




『俺は、お前が好きだよ』

…ああ、そういうこと。

こんなどうしようもない人間を好きだとか暗い顔をさせたくないとか、ほんとに、こいつは、物好きだ。
ほんとに、勉強しかできなくて、デート中も参考書ばっかり読んでるような不器用なやつで。
人が失恋して落ちてる時に告ってくるかと思えば、お前もちゃんと告白しろだなんて励ましてきたりするお人好しで。




「……行くか」

がたん。昌也が立ち上がる。さも当たり前のように無言で金を払い、店を出ていく。
…むかつく。
あとを追いかける。
前を歩く広い背中は、何故か遠く感じた。
きらり。昌也の茶髪が日光で明るく輝く。

不意に、きらきらの金色が重なった。



『…朔哉』
『…………』
『……朔哉』
『……なーに?』

(…こっち、向けよ)



「………昌也ぁ、」

えらく弱々しい声が情けない。下手したらうっかり涙なんか流してしまいそうだ。
昌也はゆっくりと振り向く。
俺の姿を捉えると、人混みの中で足を止めた。

「…やっぱり、忘れらんねえよ」

ずっと好きだった。
今さらすぐに他の奴、なんて無理だ。

それがたとえ、昌也でも。

仕種が重なる。
アイツのことを考える。
悔しいくらい、アイツ色。

今でも苦しい。




「…忘れろなんて、言わねえよ」



でも。
それでも。

俺の背中を押してくれる。
俺を好きだと言ってくれる。

そんな奴は、きっと、






「俺が、アイツを塗り替える新しい思い出を、作ってやる」





きっと、お前しかいない。








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