俺以外にどれだけの人を抱いていようが、関係なかった。
その目が俺を見ていなくても気にならなかった。

あんたに抱かれる、それだけで良かった。




グッバイ・ホリデイ




「…暑い」

思わず呟いてはみたものの、偉大なるお天道様の気分は、こんな俺にどうにかできるほど甘いモノではないのだ。じりじりと肌を焼くまるで鬼畜な、何万光年と離れた大惑星を僅かな抵抗にじろりと睨んではみるが、この視線が向こうに届く頃には俺だってもう数回ほど生まれ変わっていそうな気がして、もっと萎えた。

あつい。そんな9月。

「だああっなんでもう9月なのにこんなクソ暑いんだよ!こんなに暑いのにお勉学になんか励めるかよってんだ!」
「気温に拘わらずお勉学に励む充を見たことがないのはオレだけではないハズ」
「昌也、黙れ」

窓際でパタパタとウチワをはためかせながら、隣で冷静に呟く腐れ縁を容赦なく一蹴してやる。決して、図星だからではない。決してだ。
それなりに名門でそれなりにお坊っちゃんなココに入学したのは、5ヶ月ほど前のこと。中学の時に目一杯勉強して見事ラインギリギリ合格、したのはいいが、早々に学校のレベルと俺のレベルの差を悟った。結果、勉強なんてくそくらえ精神。
それに引き換えこの腐れ縁、楢橋昌也。フツーに余裕合格、授業で指名されても余裕、テストだってトップ20には入ってしまう。俺からしてみりゃ、くそ野郎だ。羨ましい。妬ましい。

「俺は高校生活で勉強より大切な何かを掴んでやる」
「あっそう」

盛大なため息と同時に昌也は教科書に視線を落とした。俺は空を仰ぐ。こんなところから差は開いていくんだろう。それに気付いてまたげんなりした。
しかし、今日も空は青い。

「充」

その時。
背後から聞こえたその声に吸い寄せられるように振り向くと、見慣れた金髪がそこにあった。

「行く?」
「おー」

交わす言葉は短い。だけど、これで十分。ひらりと踵を返す背中を追う。

「…どこ行くんだ?」

つもりが、昌也の声に呼び止められた。ちらりとくれた視線が突き刺さる。

「さて、どこだろな」
「授業、始まる」
「…いいんだよ、別に」

どこまでも真面目で堅物なセリフに、思わず笑ってしまった。
どちらかと言えば俺もそっち側の人間だったのに、ものの数ヵ月でコレだ。自分のことながら、恐ろしい。
振り切るように、ザワついた教室をあとにした。


====


「っふ、…ん、っ…」

薄目を開けてその顔を盗み見た。伏せられた睫毛はまるで女子のように長い。今にも飛びそうな意識の中で、ぼんやりと、綺麗だと思った。
そしてゆっくりと、瞼が開かれる。

「…今、見てただろ」
「……おー」
「…ショージキ者」

見とれていたのを言い当てられ、心臓が鳴った。否定はしない、この人に嘘を吐くことは無意味に等しい。
感嘆のような嘲笑のような声が降ってくると同時、薄い唇が迫ってきた。今度は素直に目を瞑る。
触れ合うか触れ合わないかの距離で、すぐに舌が入ってくる。俺も黙って舌を差し出した。
薄暗くて、静かで、二人の音だけが響く。それがまた、興奮する。加えてコイツ、器用に上も下も弄ぶのだ。濡れた音が聴覚をも犯していく。思わず、はぁ、と熱い息を吐いた。それに気付いたのか、フッと鼻で笑うのが聞こえた。心なしか、中を掻き回す指がさらに深く差し込まれた気がする。思わず出かけた声を引っ込めた。のに、耳元では、我慢すんな、なんて囁かれたりして。

お見通し、だ。

「……ムカつく」
「…何が?」

この答えだって、きっと分かっているんだ。
嫌になる。俺ばかりが、溺死寸前。溺れない程度に泳がせるのだ、この男は。

「…いいから、早く入れろ」

制服のズボンを押し上げるソレを撫で付けながら目を合わせると、まるで糸で吊り上げたみたいに口元を歪め、俺の身体を自身にもたれさせた。
遠くに見える窓の外は、晴れ模様。
肩口に顔を埋めた。
青空は嫌いだ。

「…朔哉」
「…ん?」

まるで清々しい。
気味が悪いくらいに。
見たくない。見たくないから。

「………好きだ」

俺を澱みへ連れていけ。




--0829



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