▼ 衝撃 : 11 / 17
『第一レーン、辻本 彰太くーん』
名前を呼ばれた彰太は、わああ、という男子生徒集団の野太い歓声の中、一歩前に出て周囲に大きく手を振った。
『第二レーン、鳴海 春くーん』
続いて名前を呼ばれたのはハルくん。ハルくんは投げキッスなんかかまして、1年生からブーイングが出ていた。
…俺には真似できないな。
二人の堂々たる振る舞いには素直に感心した。昔から、人前に出たり、目立つようなことは得意じゃない。何かに没頭していれば、観客がいても気にならないのだけれど。例えばさっきの徒競走。走ることに集中していたから何ともなかったが、こうやって意図的に周囲に自分をさらけだすのは苦手だ。
全員が名前を呼ばれ、位置につく。
放送委員長が息を大きく吸い込むのが、スピーカー越しに聞こえた。
『…位置について、ドン!』
同時、歓声が轟く。
陸上部員なら委員長に抗議でもしかねないようなスタートの合図に、選手の誰もが転げそうになりながら走り出した。
『さー始まりましたームチャブリレースぅ。今年も体育委員が張り切って指令を考えてくれましたぁ。』
放送委員長の気の抜けたアナウンスをBGMに、全選手、一斉に体育委員とじゃんけんする。負けたのであろう選手は粉入りの箱へ、勝ったのであろう選手は一目散にスタンドマイクへ駆けていった。
bkm
← →
/全80page
≪back