▼ 覚悟 : 11 / 12
「…待、って…!」
思わず、神野さんのTシャツの裾を掴んだ。
ゆっくり振り向いた彼のふたつの目は、僅かに見開かれている。
「……やだ、」
「…何が?」
「………ね、たく、ない…」
「……なんで?」
徐々に、こちらに身体を向けてくれる。
その表情は、とても優しくて。
…涙が出た。
「ちゃんと、こころの準備…してきた、って、言ったじゃん…」
…嘘。
ほんとは、こわくて仕方ない。
緊張するし、痛いらしいし、どうなっちゃうのかよく分かんないし。
けれどそれ以上に、もっと今以上、親密になりたいって、思う。
…神野さんが、すきだから。
「…せんぱい、」
腕をぐっとのばして、前のめりになりながら、絡むように神野さんに抱きついた。
「…おれと…セッ、クス…して、ください」
…身体中が、あつい。
俺の心臓の音、それ以外何も聞こえない中、ただ俺は、ぎゅっと彼を抱き締めていた。
きっと、一瞬のことなんだろうけど、果てしなく長い時間に感じる。
「……あーあ」
ゆっくりと、彼の手が俺の背中に回され始めた。
それは、俺の肩胛骨の辺りで不意に動きを止めて、そこをぎゅっと握る。
「…大事にしようと思って、我慢してたのに」
すると彼は大きく、ため息じみた言葉を吐いた。
さっきとはまた違った、速すぎる鼓動を感じながら、俺はそのまま彼の肩口に顔を埋める。
bkm
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