▼ 覚悟 : 8 / 12
…自然と彼の胸に当たった耳に、伝わったのは。
「…余裕ないよ、オレも」
トクトクと、聞こえる心音。
…俺と同じくらい、速い。
彼はゆっくりと俺の身体を離して、俺と目線を合わせる。
「…いいの?」
真剣なその声とその瞳に、全部を奪われた。
俺はただ、まるで操られたみたいに、コクン、とひとつ頷くしかできなくて。
大きな両手に頬を包まれ、鼻と鼻が触れ合うほどの距離で視線を絡めた。
そのまま吸い込まれるように唇が重なる。
最初は、ちゅっちゅっと唇と唇が合わせられていたけど、やがて互いが交わるようなキスに変わっていく。
「…ん…ッ、ふぅ…ん…」
唇の端を唾液が伝っていくのを僅かに感じる。
俺は彼の唇に流されるばっかりで、ただそれに応えることに精一杯だった。
背中に回された手が、腰の辺りまで下ろされて、周辺を撫で始めた。反射的に動く身体が何だか恥ずかしい。
「…翔……」
「あ、ッ…ん…っ」
ついに素肌に手が触れて、思わず声が出る。
…どきどき、する。
けれど。
…もう、こわくない。
とてつもない緊張を感じながらも、彼に身体を預けた─
「ただいまー!」
bkm
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