覚悟 : 6 / 12


「スゲー。店出す?」
「もう、いいから!早く食べよ!」

あまりに誉めるものだから、逆に恥ずかしくなった。
ナイフを押しあてて、二人分を切り分ける。
正直なところ、思った以上に上手くできたから、勿体無い気もしたけど。

「あ」
「ん?」
「…ローソク、立てるの忘れたね」
「…んまあ、いいや」
「…では、お誕生日、おめでとうございます。」
「はい、ありがとうございます」

ケーキを前にして、子供みたいに笑い合った。
いただきます、と彼はフォークで丁寧に、ひとくちぶんだけを崩して、口に運んだ。

「うまっ」
「…なら良かった」

彼の言葉に心底ホッとして、俺もひとくち。
…うん、初めてにしては、うまい、かな?

「はー、うまい」
「…そんなに?」
「うん。うまい」

本当に大袈裟なくらいに誉めちぎりながら、彼は、ぱくぱくケーキを頬張っていく。

「…オレさ、」

すると。
彼は、不意にフォークを止めた。

「両親が忙しい人だからさ、あんまり、誕生日祝ってもらった経験、なくてさ」

カツカツと、フォークでチョコのプレートをつつきながら何だか遠い目で、彼は言う。

…誕生日。
俺だって、小さい頃から、母さんはいつもいつも仕事に出ていた。だけどその分、親父と弟が、いつも盛大にパーティーしてくれたっけ。
俺でさえ、そんな記憶があるというのに、彼は、それが無いと言った。

「…だから、嬉しいよ」

…じゃあ、幼稚園では?
小学校では?中学校では?

…昨年、は?
たくさん疑問が生まれる。

…けれど。
彼の、見たこともないような、温かいその笑顔が、それらを全部掻き消してしまった。

「…ありがとう、翔」

そう言って、彼は俺の頭を撫でた。



bkm


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