暴走 : 13 / 14


「…だって」

悔しいというか、ムカついたというか。
それは多分、あの人に対して、じゃなくて。

「…そんな、小さい時からの友達に、勝てるわけない」

思わず、足が止まる。
視界には、まだ汚れの少ない、赤いラインの入った上靴。

「…おれ、あんたのこと何も知らないんだよ。…こいびと、なのに、知らないこと、多すぎて、」




「翔」

グイ、と右手を盗まれる。
自然と顔が上がって、その先には、優しいふたつの目なんて、どこにもなくて。



「…それ、嫉妬、っていうんだよ」

そのまま彼はグイグイ俺の手を引いて、ズンズン廊下を行く。
俺が呆気にとられているうちに、ボロ机がたくさん並んだ教室に放り込まれた。
そこは廊下の端にポツンと存在していて、俺も今、その存在を知った。
ピシャリ、彼は引き戸を閉める。

「…翔」

ヒヤリとした彼の手が、頬を伝う。
思わず、身体が跳ねた。

「…アイツに嫉妬したんだ」
「……っ」

耳元で囁かれたら、一気に背筋がゾクゾクした。
まるで鼓膜を直接舐めるような、官能的な。
ハァ、と彼の温い吐息が耳にかかる。

「…可愛い、翔」

呼び掛けるような声色に、俯いていた顔を僅かに上げたら顎をその長い指で捕まれて。上を向かされて。
そのまま、キスが降ってくる。

「…んっ…ふ、ぅ…ん…」

普段は、触れるだけのキス。
けれど今は、経験したことのないくらい、深く唇が繋がっている。
口元を伝う唾液にかまう余裕なんて、根こそぎ彼に奪われた。
もう、あの人に絡まれた嫌な気持ちとか、何も知らない自分とか、ぶっ飛んだ。


…彼で、いっぱいになった。



bkm


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