密室に響く濡れた音。
薄く目を開けて、その美しい顔を盗み見た。
目が合う前に、また目を瞑る。目が合わずとも、彼にはお見通しな気もするが。
唇と唇が糸を引いて名残惜しげに離れる。
もう終わり、と思ってしまった自分に気がついて、笑った。嘲笑、だ。

「…なに、充」
「いや…。やっぱり、俺、好きなんだな、って」
「……何が?」

唇の端を伝いかけた唾液を指で拭う。
その手を退けて、朔哉の顔が再び近づいてくる。ゆっくりと瞼を下ろしながら、薄い唇に蓋をした。
すぐに絡み合う舌と舌。まるで卑猥な音をたてながら、鼓動を速めていく。
そのまま身体を押され、柔らかなベッドの上に倒された。さらに深く唇が繋がる。

「…キス?それとも、オレ?」

くい、と口角が上がり緩やかな弧を描く。濡れた唇は男のものとは思えないほどに艶やか。

「…………いいから」

覆い被さってくる朔哉の肩を押し退けて、布団の上へと押し倒してキスをする。
形勢逆転、だ。

「いいから黙って感じてろ」

それからまた貪るように口づけを開始する。珍しく逃げ腰の朔哉を捕まえ、攻め立てた。

「…珍しいね…強気じゃん」

…キス?朔哉?
そんなの、朔哉に決まってる。
本当は、出会った瞬間、目が合ったその瞬間に気づいてた。気にしなくてもいい程度の想いだった。
だけどそれは、抱かれるたびに大きくなっていく。いつか溢れてしまわないように、蓋をしなくてはならない。
朔哉は俺に心まで受け渡すつもりなど微塵もない。むしろ俺がセフレ以上の好意を寄せていることが知れたら、手のひらを返したように嫌悪することだろう。
感づかれてはいけない。
…いや、もう気づいているのかもしれない。
俺が何も言わないから、きっとそのままなのだ。俺がそれを口にした瞬間、切り捨てられるのは目に見えている。
今まで朔哉がそうしてきたように。
最初から分かっていたはずだった。いざ直面してみると、心が折れそうだった。

心臓はズキズキと痛む。
傷口を押さえつけて止血し、その場しのぎの快感で消毒する。
消毒しきれなかった思いが化膿して、さらに俺の心臓を蝕んでいく。

「あァ、朔哉っ、んあ、あああ…ッ」

果たしてそれが正しい消毒薬なのか、拡がり続ける傷口の痛みのせいで麻痺したノウミソは、考えることを放棄した。

それが劇薬であることも知らずに。









藪医者のカルテ




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