バスケットボール選手にとって背丈がいかに大切か、それは素人でも理解できるであろう。小さな名プレーヤーだって世界各地に存在するけれど、それでも俺は、身長が欲しい。

辻本 彰太、身長は159cm。

背がデカイ、なんて。
全くうらやましい限りだ。





りと





「んっ…ふ、ぅ…ッう…」

互いの唇が離れた瞬間、ぷは、と息を吸い込んだ。いつもいつも、上手く息継ぎができずに酸欠になるかと思う。
相変わらず埃っぽい数学教材室で、藤高先生の腕に抱かれ、俺よりもはるかに高い位置にあるその顔を見上げ、じいっと見つめた。

「…どした?」
「……首、疲れた」

それもそのはず。
教材室に入ってしばらくちゅっちゅしていたわけだが、その間俺はずっと先生を見上げる格好、首を酷使し続けていたのだ。いい加減、疲れる。

「大変だなーおチビさんは」
「ち、チビって言うな!!」

…くそ、自分がデカイからって。
先生は相変わらずの清々しい笑顔で、俺をチビチビってバカにしてくる。悔しい。
先生は、おーよしよし、ってまるで小さな子どもでもあやすみたいに、俺の頭をぽんぽんと優しく叩きながら抱き寄せてきた。

「…まあ、ソコが可愛いんだけどな」

…先生の匂いがする。
思いがけない先生の言葉に赤くなっているであろう顔を先生の胸に埋めながら、すんすんと鼻を鳴らして匂いを嗅いだ。タバコの匂いに、何とも言えない男臭さが混じっているような。独特な香り。
先生の香り。落ち着く。

「…彰太」

先生が俺の首もとに顔を寄せてくる。ちょっとだけ顔を上げると、すぐ目の前に先生の顔があった。
再び、唇が結ばれる。
先生の脇の下から背中へ手を這わせ、抱き締めるようにしてキスに応える。俺の背中にも先生の大きくてごつい手が回ってきて、大きな身体と小さな身体が密着した。
やがて先生の唇が離れていき、ニヤニヤ顔の先生と目が合う。

「…彰太の味」
「え…何それ、どんな味?」
「……牛乳味、だな」
「うわ…俺、またバカにされてる…」

先生は吹き出すように笑い始めた。
身長が伸びるようにと毎日飲んでいる牛乳。先生になんと言われようと僅かな希望も捨てるわけにはいかない。
しかしそんな俺のささやかな努力もむなしく、ちっとも背なんか伸びやしないので、いい加減腹が立ってきたところだ。

「でも、このサイズは抱き締めやすいサイズだぞ」
「サイズって言うな!!!」
「いいじゃねえか、別に」

良くない!!!
という俺の心からの叫びは、先生の唇に消された。

「…ハグ、嬉しいだろ?」

ニヤリと笑う先生は、とびきりのいい声で俺を虜にする。その瞬間、かあっと一気に顔があつくなって、ただ頷くことしかできなかった。
先生はまた俺を腕の中へおさめると、優しい手つきで俺の頭をなで始めた。

「お前はお前のままでいいんだよ」

その言葉に、なんだか胸が温かくなって。
上目遣いに先生を見た。
目が合うと、また優しいキスが降ってくる。

「…何回キスすんの?」
「いいだろ、嫌か?」
「……嫌じゃないけど」
「けど?」
「先生、コーヒー味…」
「嫌か」
「……にがい。」
「まだまだガキだな…」
「が、ガキじゃないやい!!!」

バスケットボール選手にとって身長は大事な要素であり、無いよりはあった方が断然良いわけで、昔からチビな俺はバスケを始めた頃から常に高い身長に憧れていた。
でも、それでも、こうやって大好きな人に抱き締めてもらって、認めてもらって、たくさんキスして。

辻本 彰太、身長は159cm。

小さいままでもいいかな、なんて思ってしまったことは、ここだけの話にしておいて下さい。







りと







- 2 -


 



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -