すう、すう。
寝息をたてる、王子様。




lip on switch




彼ほど『王子様』という呼称が似合う高校生もなかなか存在しないのではないか、と思う。
長い睫毛、すらりとした鼻、薄い唇、さらさらの金髪に、ほどよく筋肉のついた身体。
安らかに眠る朔哉の姿には、同じ男である俺も何だかドキドキした。

授業が終わり寮に戻ってみれば、リビングのソファーに眠れる王子様。この様子だと、午後の授業はサボったのだろう。
これでいて2学年首席をキープしているのだから、大したものだと思う。ちょっとぐらいは嵐くんに学力を分けてあげてもバチは当たらないかもしれない。

鞄を置いて、恐る恐る朔哉に近づく。
彼の寝息は止むことはなく、穏やかな呼吸が続いている。何だかほっとして彼の顔を覗き込んだ。
衣替えの季節、緩んだネクタイにチラリとはだけるシャツの襟。覗く鎖骨がやけに色っぽくて困る。

薄く開いた唇に、目がいく。

「…………いやいや…」

その瞬間、脳裏を過った映像の数々に思わず自分ツッコミ。

啄むような優しいキス、息もできないような激しいキス、触れるだけの可愛いキス、糸が引くほどの濃厚なキス。

この唇で、いつも俺をめちゃくちゃにする。

思えば常に朔哉のペースで事が進み、俺はただされるがままに気持ち良くなって、おしまい。
…それがなんとなく、悔しい。

ごくり、喉が鳴る。

朔哉は起きない。
恐る恐る、近づいてみる。
安らかな寝息が、顔にかかる。

どき。

どき。

どき。


…どきん。




「なーにやってんの」

「うわああああ!!!」

突如として俺の鼓膜を襲った声に反射して、大きく飛び退いた。

どくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくん

身体中に響く音で、心臓が忙しなく働いているのがわかる。
ぱっちりと目を開いた朔哉はむくりと上体を起こし、ふわあとあくびをひとつ。ガシガシと頭を掻いた。
そして、ニヤリ。

「襲われちゃったあ」

ふふ、と意地悪な笑みをたたえて朔哉は自らの唇を長い指でなぞった。
その姿がまた艶っぽくて、妖しくて。

「おおおお、お、起き、てた…?」
「当たり前。翔、わかりやすすぎ」

何より、朔哉本人にこの恥態がバレていたことが、今すぐ小さな箱に入って鍵をかけてこもってしまいたいくらいに、恥ずかしい。なんと恥ずかしいやつなんだ俺は。馬鹿か。馬鹿なのか俺は。
これじゃあまるで。

「翔のえっち」
「あ、あんたにだけは言われたくない!!!」

キッ、と思わず睨み付けた。本当にこの人にだけは言われたくない。この人は本物の変態エロリストだから。

「ほら、怒るなって」
「お、怒ってなんか…!」
「おいで、翔」

思わず声を荒げる俺を宥めるように、穏やかな声で朔哉が手招きする。そんな風に優しくされるとなんだか逆らえず、じりじりと朔哉の元へ近寄った。するとグイと腕を引かれ、朔哉の腿の上に跨がる体勢になる。

「どした?」
「…べ、べつに…」
「オレにちゅーしたかった?」
「ち、ちが…っ!」
「いいから、嘘つかないで」

前髪をかきあげられ、お互いのおでこがコツンと触れた。至近距離の朔哉の顔がきれいすぎて、目眩がしそう。

「いいよ。キスしてみて、翔から」

そう言って、ふんわり微笑んだ。
真正面からの射抜くような視線に、くらりとする。
顔が赤らむのを感じながら、吸い込まれるように朔哉に口づけた。唇を舌でなぞられしっとりと濡れたころ、僅かに唇を開きそれを受け入れる。お互いの舌が絡み合い、くちゅくちゅと音をたてた。

「…出来るじゃん」

キスの合間に熱っぽく囁かれ、背筋がゾクゾクする。
頬が朔哉の手に包まれ、もう片方の手は俺の腰を支えた。
再び、唇が合わさる。
さっきよりも激しい口づけに応えるように、俺も角度をかえ、舌を出し入れする。腕を朔哉の首に回しもたれるようにして、濃厚なキスを味わった。

「…えっろいキスするね、翔」
「ッ、何、言って…」
「勃っちゃうよ、オレの」

手を握られたかと思えば、朔哉の股間に導かれる。
僅かに兆しがみられる、ソレ。


獲物を見つけた野獣のような、ギラついた瞳で、朔哉は言った。


「…覚悟はいい?」









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