「お前さ、もうちっと女としての自覚っつーもんを持った方が良いと思うぞ?」
「は?」
シャラッという袴の帯が解ける音のする方に目を向けると、ゆるくなった帯を結び直そうとしている名前がいた。さすがの俺でも目が飛び出るかと思ったぞ、オイ。
「普通男の前で袴直すかよアホ」
「んな!アホじゃないし!」
キュッと細い方の帯を結び終えた名前。でもまだ後ろの太い帯を結んでいないせいで、袴の中から細い太ももが艶めかしく覗いている。
「いーじゃん別に、犬飼と私しかいないんだから」
ぷいと顔を背けた名前はそのまま手を進め、あっという間に袴を直し終えた。あー、暑さで頭でも湧いてんのかな俺。なんか心の奥で残念とか思ってやがる。
「そういう問題じゃねぇって。借りにも俺は男だぞ」
「?だから何」
「だーかーらーぁ!………はぁぁ……もういーわ、練習練習っと」
コイツほんとにアホだ。っつーかガキだろどう考えても。男がどういう生き物か分かってない。そもそも年頃の娘が故意以外で露出し出す事なんかあんのかよ、ねーよ普通は。
「なんだよー!最後までちゃんと言えー!」
「言わねーよ、めんどくさい事はキライなんですー」
「ぬぁんだとぅ?」
名前はピキリという音が鳴りそうな不敵な笑顔を浮かべ、ドスドスと足音をたてながら俺の方に歩いてきた。おーい、宮地がいたら怒られんぞー、うるさい!って。まぁ今はそんな事どーでも良いけどさ。
「吐き出せぇぇえ!!」
「ぬおっ!おい揺らすなよ!っつーか暑ぃから近寄んな!」
俺の胸倉を掴んだ名前は、脳震盪を起こすんじゃないかってぐらい、俺の体を前後にグラングラン揺らし始めた。
「そんな事言うなら更に暑くしてやるコノヤロー!」
「っうぉお!!?」
躍起を起こした名前は、いきなりガシッと俺に抱き着いてきた。抱き着かれた反動でグラリと揺れる視界。胸板から足にかけてまで急に高まる体温。ふわっと漂う鼻腔をくすぐる甘い匂い。何やってんだ?コイツ。と回る思考。そしてそれに比例するかのように、今度は頬が熱くなる感覚が脳に伝わった。
「キャッ!?」
ドサッ―…
いや、ドサッていうよりドカンッ?とにかく、その音を皮切りに道場が一気に静かになる。
「……ったた……」
右手の甲を額に宛がい、細くなった視界で天井を見上げる。天窓から差し込む日差しが目に染みた。
「っと、おーい大丈夫かー?」
名前の安否を確認しようと目線を自分の胸板辺りに移す。重さと熱さを感じるから、きっとアイツは俺にしがみついたまま倒れ込んだんだろう。まぁそれならそれで怪我はしてないと思うけど。
「……………。」
そこにいたのは、真っ赤に顔を染めて目を見開く名前だった。あれ?予想と違うぞ。コイツならもっとイヤそうな顔をすると思ったんだけど。
「あ、いや、その……大丈夫か?まぁお前ならケガなんてしねーと思うけどさ、あはは……」
笑い話に持ってこうとしたものの、見事に不発。名前は顔を真っ赤にさせたまま、気まずそうな表情でうつむく。
俺は無意識のうちに、俺の胸板に垂れ下がったコイツの髪の毛に触れていた。やっべーな、心臓の音聞こえてんじゃねえか?これ。
そして、名前は口を開く。呟いたその簡単な二文字は、俺の心拍数に更に拍車をかけた。
「 。」
超天然テロリスト
◎afterword
投稿者の稍という者です。今回は、このような素敵な企画に参加させていただき、まことにありがとうございます!かなり恐縮です(笑)
最後に、企画者の梨乃様、そして読んで下さった皆様、本当にありがとうございました!
by ソーダ水と雨
(管理人:稍 汐架)
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