「宮地〜デートしよーよー。遊び行きたい!!」
「なっ…!!お、お前には犬飼がいるだろう!!」
「ダメ?」
「だ、ダメだ!!」
部活の終わり際に宮地をデートに誘うと宮地は目を見開いて驚いた後、じわじわと赤くなって最後には完全に拒絶されてしまった。
でも、別に残念なんて思うことはなくて、むしろ私はこの反応を待っていた。だって宮地をデートに誘ったのなんてただの布石にすぎないんだから。
「ちぇー…じゃあ犬飼でいいや。犬飼ー可愛い可愛い名前ちゃんがデートしてあげるよー。」
「なんで上からだよ。っとに可愛くねぇな!!」
「まぁ、彼女に向かって失礼な!せっかく誘ってあげたのに。」
「つか、なんで真っ先に宮地なんだよ。」
「だって宮地ってなんかカッコいいじゃん?」
「おまっ!こんだけイケメンな俺を捕まえておいてだな…」
「まぁまぁ、拗ねないでよ。愛してるよダリーン。」
「はいはい、俺もだよハニー。」
わなわなと震える犬飼をなだめるようにからかい半分でダーリンとか言ってみたら私が適当にしか相手をしないことに呆れたのか一旦がっくりと肩を落としてから投げやりに返事をして練習に戻っていってしまった。
そしてそんなやり取りをしてからしばらく後、宮地の号令によって部活が終わり、私達はいつも通りに並んで歩きながら寮に向かっていた。
「あちー…」
「夏だもんねー。」
「あーあ、せっかく夏なんだから海とか行きてぇよな…夏!海!水着ギャル!」
「お、これは私の水着姿を披露する時がきたか!」
「いや、別にお前にゃ期待してねぇよ。」
「何故だ…っ!胸は普通サイズなのに…っ!」
「確かに胸はあるが、その分腹の肉も…」
「待って!悲しくなるから止めて下さい、お願い。」
チラリ、と私のお腹に視線をやった犬飼から隠すように両手でお腹を押さえると犬飼はガハハハと豪快に笑った。
「でもやっぱ、せっかくなら海とかプールとか夏っぽいことしたいよな。」
「じゃあさ、今度の部活が休みの時に海行こうよ!」
「…いや、やっぱダメだな。お前と海は行けねぇわ。」
「え…」
少し間があってから真面目なトーンで発された犬飼の言葉に思わず立ち止まって聞き返してしまった。私と行けないってどういう意味なんだろう。なんだか、さっきまでの楽しかった気持ちが吹き飛んで嫌な考えが頭をよぎった。
とりあえず、その気持ちを誤魔化して犬飼にも悟られないようにさっきまでのような明るい声を出してみる。
「あ、はは!そう、だよね!私の水着姿なんて見れないか!!」
「おい、お前と行きたくないのは別にお前のことが嫌だとかそんなんじゃねーぞ。」
「じゃあ…」
“何?”と最後まで言葉にすることは出来なかった。代わりに犬飼を見つめて理由を促すと、犬飼は私から視線をそらしながらほんのり頬を染めてぼそりと呟いた。
「だから、その…お前の水着姿を誰かに見られるとか考えたら…なんか、ほら。アレだろ。…察しろ、バカ。」
最後まで言ってから恥ずかしくなってしまったのか犬飼はプイッと私から視線だけじゃなくて顔もそらしてしまった。
…そうか、犬飼も嫉妬とか心配とかするのか。
「…やっぱりさ、行こうよ。海。」
「は?お前今俺が言ったこと聞いてたか?」
少しだけ、犬飼のシャツの裾を引っ張って告げると犬飼は意味がわからないと言いたげな表情で反らしていた顔を戻して私の方に向き直った。
「別に海に行ったからって泳がなくていいじゃん。だから、行こうよ。」
「でも、それだと暑い上に人多いし、海ん中入れないんだぞ?」
「いいよ、犬飼となら別にどこだって楽しいよ。」
「…そっか。」
ニッと笑って言い放つと、犬飼は私の頭をわしわしと乱暴に撫でてから特徴的なあのサメっ歯を見せて夏の太陽みたいに明るく笑った。
―ひと夏の魔法
(あなたの笑顔を輝かせる素敵な魔法)
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