すぐ近くに祭囃子が聞こえる。

焼きそばやクレープに、水ヨーヨー、くじ引き、射的などといった様々な屋台はどれも色鮮やかで、見ているだけでも自然に気分が高揚する。予め造られていた通路は大勢の人間でごった返し、進行方向もばらばら。これでは途中で立ち止まったり引き返したりすることなど、到底出来そうもない。

歩みを止めることも、背後を振り向くことも、脇道にそれることも許されずに、私に出来ることは、ただ、見えない大きな力に身を任せることだけ。

何百ものさざめきが、私の体を次々に通り過ぎていく。それらが特定の意味を成すことはなく、淡々と飛び交う。

一旦、息が詰まるほどの人混みに紛れてしまうと、ほんの間近に感じられるはずの人びとの喧騒が、薄いフィルター一枚を隔てたように聞こえる。遠くから眺めているだけでは分からないその感覚は、とても不思議なものだ。まるで、自分だけが世界から切り離されてしまったかのような、一抹の不安と疎外感を覚える。未踏ではあるが、テレビでよく見かける大都会のスクランブル交差点もこういうものなのだろうか。わざわざ実際に体験してみたいとは思わないが。

「わ、すみませ…っ」

それまで順調にすり抜けていたのに、見知らぬ誰かと肩がぶつかってしまった。その反動で、つまずく。

「う、わ」

慌ててバランスを取ろうにも、極端に体の動きを制限されたこの空間でそんなことは不可能なわけで。ああまずいな、とどこか他人事のように考えていたら、横から強く手を引っ張られた。誰だろうとかなんだろうとか思うより前に、私は人混みを抜け出していた。

照明がほとんど届かない、屋台の裏通り。ここは売り子や客たちの威勢の良い声が僅かに聞こえる程度。嫌気がさすくらいの人混みから、ようやく解放された安堵感に胸を撫で下ろしていると、そっと抱き寄せられた。

「やっと見つかった」

久々に聞いた優しい声に、温もりに、涙が出そうになったのは、言うまでもない。


人混みの中、君を探す

私の右手は、もうほどけないように、しっかりと握られていた。








■あとがき
「詩の中の物語」様に提出。

書き上げてから、犬飼視点の方が良かったかもしれないと思い始めているのですが……要望があれば書きます(←)

夢主のモノローグばっかりで、肝心の犬飼の出番がほとんどありませんねすみませんもっと頑張ります(^^;)


ここまで読んでくださった皆さま、ありがとうございます。

そして梨乃様。今回も素敵な企画に参加させていただき、本当にありがとうございました!



みかん


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