17.自惚れる(ギアッチョ)

「ん〜〜〜、どっちが良いかなぁ」
「オォイ、早く決めろよなァァ!」
「あーん、ごめんってば。……う〜〜〜ん……」

 ああ、ギアッチョってばイライラしてる。だから付いて来なくて良いって言ったのに。


 今朝。新しい洋服を買おうとショッピングに出掛けようとしたところ、ギアッチョは俺も行くと言って譲らなかった。
「えー……1人で平気よ。ギアッチョ、女の服なんて見てもつまんないでしょ」
「良いっつってンだろォ。俺もそっち方面に用があンだよ」
 これはもう、何度も繰り返してきたやり取りだ。なにかと理由をつけて、彼はなぜかいつも私の買い物に付いて来る。そしてイライラしながら私の洋服を選んでくれるのだ。

「……オイ、まだ決まんねェのか」
「ウン、ごめん。もうちょっと悩ませて」
「さっきからずっと悩んでんじゃあねーかッ!」

 そう言われても、どっちのワンピースも雑誌で見て気になっていたやつだし、そう簡単に決められない。

 全身鏡の前で一着ずつ、自分の体に当ててみる。
 ギアッチョは先ほどからずっとつまらなそうに腕を組んでいる。鏡の中の彼に問いかけた。

「ねぇ〜ギアッチョ、どっちが良い? ギアッチョはどっちが好き?」
「ア? どっちも似たようなモンだろォ……」
「似てるケド、微妙に違ってるでしょ〜。ね、どっちが好き?」
「…………もう良い、貸せ」

 ギアッチョはそう言って私の手からワンピースを二着とも奪い取り、キャッシャーへずんずん向かっていった。「あっ、待って!」女性ばかりの店内。居心地悪そうに大股で歩く彼の後ろを慌てて追い掛ける。
 彼は流れるようなスピードで財布をひらいた。私は彼の隣にちょこんと収まって、ありがと、とお礼を言った。

「どっちか一着で良かったのに」
「そしたらオマエ、一生決まんねェだろ!」
「ギアッチョも決められなかったでしょ」
「うるせぇなッ!」

 キャッシャーで店員のお姉さんが苦笑いしているが、無理もない。彼女につられて私も思わず笑ってしまった。

「ふふっ……」
「なに笑ってンだコラッ!」
「別にィ? ……うふっ、ギアッチョって私のこと好きだよねぇ」
「アァァ!? 調子乗ってんじゃあねェ〜〜〜ッ!!」



終 2019.06.07

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