「バンドしようや!!」


という謙也さんの好奇心で俺らは期間限定バンドを組むことになった。もちろん謙也さんはドラムで俺は趣味でやってたベース。一氏先輩もギターに入れて白石先輩はわかりきってるけどボーカルになった。千歳先輩はタンバリンやるとか言い出したからお断りした。金ちゃんはわいもやるーとか言ってたけどキーボード破壊しそうになったし絶対できなさそうやからやっぱりお断りした。小春先輩は塾で忙しいんやて。小石川先輩は「俺は忙しいからええよ。ライブよんでや」って言って終わった。まあ4人やけど案外いける人数やから期間限定バンドはこれで完成やな。


「なあなあ何の曲やるー?」
「そうですね、白石先輩何うたえるんすか」
「俺は結構何でもうたえんで」
「じゃあ木村カエラとか」
「それは無理や」
「なあなあ、あれは?V系とかそういうなん」
「えー、謙也さんガラちゃいますやん。とくに白石さん」
「確かに俺ヘドバンは無理やわ」
「じゃああれは、フランプールとか」
「なんでそこ?」
「でもいいんちゃう?俺フランプールやったらうたえんで」
「じゃあ他の曲は何にしますか」
「ゆずとか」
「俺はそれでもええですけどめっちゃショボくなりませんか」
「それは失礼やろ財前」
「まあシドとかポルノとかそこらへん行ったら王道やし盛り上がるんちゃう」
「おー、ユウジさすが」
「じゃあそんなんで行きましょか」


そんなこんなで練習がはじまった。一ヶ月とか正直短いけどまあなんとかなるか精神でやって行ったらほんまになんとかなった。そんであっというまに本番直前。あと20分ではじまりますよ。


「あと20分ではじまりますけど、先輩ら準備大丈夫ですか?」
「ざ、ざいぜん」
「え、謙也さんどないしたん」
「あかん、俺めっちゃ緊張してきた」


ああいるいるこういうやつ。やたら緊張しいやねんな。「あかん、どうしよう財前」っていう謙也さんの手は震えていた。いやいやあんたはじめてちゃうやん、こういうとこ出んの。前聞いた話では一氏先輩とバンドしとったんやろ?やのになんで。


「なんでそんなに緊張してるんですか謙也さん」
「わからへん、なんでやろ」
「…はあ」
「たぶん、たぶんな、財前とかテニス部のみんながおるからやと思う。成功させなって気持ちが強いんかな」
「…」


この人はなんでそんなことで緊張するんや。アホやと思うけど、実はかわいいと思ってしまった自分がいる。俺もアホやわ。「財前なんか緊張ほぐすこと知らん?」ガチガチに震えながら聞いてくるからこっちまで緊張してきた。震えた手をぎゅっと握ってやると「財前、」と震えた声を出した謙也さん。しゃあない、世話のやける人やな。震えた唇にもう黙れと言わんばかりにキスをしてやった。本番前やのに恋愛しとる場合かいな。


「…ん、」
「これで緊張ほぐれたでしょ」
「…え、あ、はい」
「じゃあドラムがんばって下さいね。あと10分で本番やから」
「わ、かりました」
「…落ち着きましたか?」
「お、おう!」
「そらよかった」


まっかな謙也さんを見てちょっと逆効果かもと最初は思ったけど俺の質問に笑顔で答える謙也さんに少しは落ち着けたんかな、とちょっと安心した。ユウジ先輩と白石先輩ももしかして緊張してへんかな。


「おいお前ら何しとん」
「あ、白石先輩。緊張してませんか?」
「いや大丈夫やで。ん?なんや謙也、そんな赤い顔してどないしてん」
「や、なんでもない!」
「なんやねん」
「ほら、もう始まりますよ」


ユウジ先輩が向こうから「もう本番やで!お前ら何しとんねん、早くしいや!」って小声で叫んでくるから謙也さんと白石先輩を連れてユウジ先輩の元へ向かった。舞台裏からチラリと客席を見ると千歳先輩と小石川先輩が一番前を陣取っていた。あの二人、案外違和感がなくてびっくりした。きっと小春先輩と銀さんは早寝だから来れなかったんだろうな、と思いながら来てくれた二人に笑みがこぼれる。後ろでユウジ先輩が「よっしゃ、いくでお前ら!」って言って円陣を組んだからいつもは乗らない俺も、今日だけは乗ってやることにした。きっと俺らのこの初舞台は、大成功するに違いない。隣で深呼吸をしている謙也さんを見て思った。










ロックバンドパラレルタイム
(やっば、めっちゃ楽しかった!)(ほんま成功しましたね)(お前ら最高やったで!)(小春にも来てほしかったなあ)





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