彼は甘えただ。その体格や顔からは想像もできないぐらい、よく甘える。例えばそう、二人でいるときだとか。しかも二人きりならたとえ部室だろうが教室だろうが帰り道だろうが気にしない。いつも向こうから指を俺のそれに絡めてきたり、後ろから抱きついてきたり、もたれてきたり、ふいにキスをしてきたりする。前までは彼がこんな人だなんてまったく知らなかった。ようやく知ったのは付き合い初めてから。それから日に日にエスカレートしていって、今ではあの頃が懐かしく思えるぐらい。きっと彼に誰かに見られたらどうしようなんて恐怖はどこにもないのだろうな。


「ごめん」


でも今日、部室でちょうど二人っきりになったとき、いつものように千歳がキスをしてきた。近くで足音が聞こえているのにそれでもやめようとしない彼に抗議をしつつも結局流されてしまったら、謙也がちょうど部室に入ってきた。「えっ!」って、素頓狂な声を出して、勢いよく扉を閉められた。そのあとは走って逃げる足音だけが聞こえた。もう、わけがわからない。俺は我慢の限界で、とうとう千歳に怒った。


「ええかげんにせえよ」
「ごめん」
「ごめんで済んだらこんなことならへんねん」
「わかっとう」
「ほんまにわかっとるんか?」
「…」
「…わかってへんのかい」
「ごめん」


そう言って眉を下げて笑う。一応反省はしているようだが彼はいつまたそういうことをするかわからない。もうこれ以上周りにバレるわけにはいかないのでこれを機会に釘を刺しておくことにした。怒りを隠すことなく溜め息を吐く。それに気づいた千歳が気まずそうに下を向いた。と思ったらいきなり真面目な顔をしてこっちに近づいてきたから何をするんだと疑っていたら「許して、蔵之助」と言いながら抱きつかれた。


「…今回、だけやで」


反論の声が彼の腕の中では弱々しいものに変わる俺は、どうにも彼に甘いらしい。









シュガースパイス
(でももう次は無いからな!)





(0912)




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