「ねえ、なにやってんの」

って、聞かれたから。今から帰るとこって答えた。そしたらみるみるうちに眉間に皺、そして信じられないという顔。うわあ、女の顔ってこんなに崩れるもんなんや、すごい。素直にそう思って凝視していたらイライラしたようだ。ずい、と一歩近づいてきた。

「今日、あたしと帰る約束してへんかった?」
「…してないけど」
「あたし昨日メールで、帰ろって言うた!」
「俺は断ったけど」
「…それで、」
「なに」
「それで、その人はなに?」
「なにって、部活の先輩」
「せん、ぱ…」

また信じられないという顔をして、俺と後ろにいる先輩の顔を交互に見る。ちら、と俺を見て、また謙也さんを見る。顔がまたひどいことになった、これはもう見れるものじゃない。涙目されても今の状態じゃときめかない。言葉にできないと言うように唸ったと思ったら、死ねや!と叫ばれて、左頬に衝撃が走った。ああこれは不覚だ。油断してたせいでモロに食らってしまった。じんじんと、痛みが広がる。叩かれたままの状態で停止していたら、バタバタバタ、と足音が聞こえた。走って逃げたらしいそれはまさに怒り逃げ。俺しか損してなくて溜め息がでそうになった。せっかくこれから、ラブラブデートやっちゅうのに。


「な、なあ財前、大丈夫?」
「…大丈夫です」
「ほっぺた腫れてる」
「うそや、いやすぎる」
「なんか途中で冷たいジュースでも買うか?それほっぺたに当てとくとか、」
「ああそうすね」

なにそれかわいい。そんな発想ができる謙也さんがかわいい。あの女にも、このかわいさを見習ってほしかった。そんな気分です。


「あの子、すごい顔してたな」
「そっすね」
「女子って、怒ったらみんなあんなんなるん?」
「人に寄りますよ、もっとあっさりしたやつもいるやろし」
例えば俺みたいに。
「そっか、そやな。まああっさりしすぎてるのも悲しいけど」
「へえ」

なるほど、じゃあもし謙也さんと問題が怒ったときは可愛く引きとめよう。涙目で上目遣いしていやや離れんといて、って言うたら確かにこの人は離れそうにない。ちょっと学習した。

「あの子とは付き合ってんの?」
「…え?」
「あ、あかんこと聞いたな、ごめん」
「別にいいですけど。謙也さん知らんかったんやなあって」
「知らんかったって、やっぱり付き合ってるんか」
「付き合ってないっすわ。ていうか俺、今年入って彼女作ってへんから」
「う!」
「う?」
「嘘や!財前やのに!」
「…なんすか、それ」
「やってお前、一年ときはずっと彼女おったやん、見るたびちゃう子やったけど」
「あのときは若かったんですわ」
「今は大人なったんか?」
「一途なったんですよ」
「え!」


え、ってなんやねん。謙也さんの顔は心底びっくりしたような顔をしていた。どうやらこの人の中では俺は相当遊び人のようだ。まあそんな顔も、かわいいんやけど。あの女だって言い寄られてるだけで別に俺は答えてなんかない。まさかここまで勘違いされてるとは思わなかったけど。「お前好きな人おるん?」また心底びっくりした顔で聞いてくるから拍子抜けした。俺はこんなにわかりやすくしてんのによく気づかへんもんやなあって。俺が謙也さんに好きやって言ったらそんな顔されるのかな。一途になったのも謙也さんのおかげや言うのに。ラブラブデートって思ってるのもどうせ俺だけですよ。ある意味謙也さんはあの女よりも難しくてどんな相手よりも厄介だ。普通の先輩と後輩の中にしてはものすごく仲良しだから、今はいいのだろうけど。


「まあ、一途な財前も、俺は好きやで」

こう言うのって、関西ではぼちぼちでんなって言うんやで。今ならどんなコントだって愛でできそうだ。









俺の秘密と感情論
(時には焦ったりするのも大事なことやろうけど)(今はこんなのんびりした青春も嫌いじゃない)





(0915)





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