手を伸ばしても届かないのはわかりきっていることで。だからこそ俺はもがき苦しみこの想いをどうにか殺そうとしていた。だがそれも失敗に終わり、気がつけば白石を組み敷いている始末。震える睫毛がどうしてと訴えかけていた。


「ち、とせ…」
「…そげん心配せんでよか。痛くはせんと」


ああ俺は何を言っているのだろう。こんなことをしておいて。白石の顔がますます不安の色をうつしたのを、見て見ぬフリをした。暴れる手足をおさえつけ、嫌がる唇に無理矢理キスをした。これが、白石とのはじめてのキス。涙がでるほど嬉しい。唇を離すとようやくやめろ離せ何してんねんと弱々しく抵抗しだした。遅い。もう遅い。ここでやめることができたらどれだけ楽か、俺が一番わかっている。今これをやめてしまえば若気の至りで済むし、これから白石とまたチームメイトに戻れる。でもそれをしないのは、もう自分がどんな人間になろうともそれでもいいと思えたからだ。白石が着ている指定のカッターシャツを剥いだ。恐怖で動けないでいる白石の首筋にキスをした。白石の肩は、震えていた。テニスで有名強豪校の部長。誰からも慕われ何事にもパーフェクトを貫く白石。それが男におさえつけられただけで、こんなにも弱くなってしまうなんて。まるで笑い話だ。俺はそれに、欲情しているのだから。


「や、めろ、千歳っ!」
「うるさいと、静かにせんね」
「あほ、離せ…っ」


ぞわぞわと、変な感覚がする。そうだろう、白石は。きっと気持ち悪いのに快楽を感じて、それに流されそうになっている。その感覚は、普通の男なら体験できない。今だって、もう白石の瞳には涙が浮かんでいて。抵抗する体には力が入らなくなっている。いっそのことされるがままになってしまえばいいのに。それなのにまだ白石の腕は俺を押し返そうと肩を這っているのだから、世の中うまくいかないものだ。力は俺のほうが強いと、体格でよくわかった。だから押し返そうとする手を引き剥がすことができた。天才と馬鹿は、紙一重だ。


「どぎゃんしたと?もう力が入らない?」
「あっ、…ん」
「…白石、」


いつしか告白をして、両想いになって、手を繋いでキスをして、了承を得たうえでセックスをする。それが夢だった。こんな形で、白石の感じている顔を見ることになるなんて、誰が想像していただろう。道を外れた人間はもとの道に戻ることが難しい。それが俺だとしたら、白石だってもう後戻りはできない。


「むぞらしかね、」


そうやって耳元で囁いた言葉にさえも白石は涙を流すのだから。とんだ笑い話だ。












欲望の波に溺れて死ねばいい
(そして俺を愛せばいいんだ)





(0803)





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