謙也さんを好きで好きで仕方なくなった去年の冬、俺はついに謙也さんで抜いてしまった。もう何も考えられへんかったとき、気付いたら謙也さんの名前を呼んでいた。死ぬほど気持ちよかったのを覚えている。

謙也さんに告白をしようと決意した今年の春間近、謙也さんに彼女ができた。同じ学年、クラスは違うけど告白したのは女のほうで、部活がない日の帰り道、幸せそうに二人で帰ってるのを見た。そのとき俺は、素直に女のほうに死ねと思った。

謙也さんにフラれてでもいいから告白をしようと再度決意した今年の春過ぎ、謙也さんは彼女と別れた。ふったのは女のほう。肝心の謙也さんをふったその言葉は、部長曰く「なんかイメージと違うかった」らしい。俺は正直嬉しかったし喜んだ。きっとその時の俺はすごく良い笑顔をしていたに違いない。これをチャンスに、ぜったい謙也さんを自分のものにしようと思った。

そして今日、その決意は悲しくも自分の良心で揺らいでしまった。謙也さんが、たまたま授業をサボりに行った屋上で静かに泣いていた。なんかあったんですか、って聞けば後輩の俺にも理由を聞かせてくれた。きっとそれは俺を信頼しているからだろう。謙也さんは、あの元カノにヨリを戻そうと言われたらしい。正直謙也さんは元カノのことをずっと引きずっていた。あの女の何がそんなに良かったんかは俺にはわからへんけど、謙也さんは向こうからの告白やったとはいえちゃんとその女のことを好きやったらしい。そして、そのまだ好きな女からヨリを戻そうと言われて、謙也さんは混乱していた。この女と付き合えばまた自分が傷つくことを謙也さんはわかっているからだ。それでも悩んでいる自分がいてどうすればいいのかわからないと、謙也さんは俺に言った。そんなん、いつもの俺やったら絶対やめとけって言う。でも今は言へんかった。言える状況やない。謙也さんはまだ泣いていて、俺の心をもやもやとした感情が渦巻いた。あんな女なんかやめて俺にすればいい、あんな女よりも絶対俺のほうが謙也さんのこと好きや。


「俺のほうが、俺のほうが絶対謙也さんを幸せにできる」


その言葉を、いつのまにか俺は発していた。俺が今までさんざん言おうとして言えなかった言葉。何回も悩んで言うのをやめようと思った言葉。謙也さんはきょとんと目をまあるくしている。その目からあふれていた涙は止まっていた。

「…あ、ありがとう」


馬鹿なこの人は正直に俺にお礼を言った。それはもう俺も財前が好きやという意味で受け取ってもいいんかな。いいんやんな。無理やり納得したくてもそれはあまりにも悲しすぎて、できなかった。ほんまにこの人はアホや。


「謙也さん、そんなこと簡単に言うたあかん」
「え、?」
「勘違いしてもいいんですか」
「……財前、?」
「謙也さんがもしその女を好きなら、自分の気持ちに正直になったほうがいいと思います」
「!」


謙也さんを応援なんてしたくなかったけど、今でもあの女には死ねと思ってるけど、謙也さんがあの女とヨリを戻して、また幸せになれるんやったらそれでもいいと思えた。これが愛なんかなあ、なんて。愛。なにそれ、恥ずかし。もうここにいても仕方ないと思えたから俺は謙也さんにじゃあ部活でとだけ行って屋上から出ようとした。あれ、俺サボるとこなくなったやん。他のとこ探さななあ、とか思いながら。ガチャリ、屋上のドアを開いた。


「財前!」
「え?」


ドアから踏み出そうとしたときに、俺を止めたのは謙也さんやった。ちょお待って、って立ち上がって俺のところまで近寄ってくる。なんやねん。またありがとうとか言われたらそれこそ俺は死ぬ。こんな黒い感情しかない俺に、感謝なんてしてほしくない。


「なあ、財前」
「…まだなんかあるんですか?」
「俺、もう元カノとはきっぱり縁切るな」
「……は、?」
「財前の言葉でわかった。向こうが可哀想とか、昔好きやったとか変なこと考えすぎてた俺」
「…はあ、」
「ついでに俺、今さっき好きなやつできた」
「…え?」
「そいつはきっと俺のことなんかただの先輩やとしか思ってへんやろうけど、めっちゃええやつやねん。やから応援してや!」


そう言って、俺よりも早く屋上から出ていった謙也さん。その顔は赤かった。え?なに?なにが起きたん?よくわかっていない俺の頭に、謙也さんの言葉がリピートされる。ついさっきまで元カノで悩んでて、いきなり新しく好きなやつができた。後輩?え?それってまさか。俺、期待してもいいんかな。たぶん次に会ったときも、謙也さんは顔を赤くさせているだろうから。今度こそは俺が今までさんざん言いたくても言えなかった言葉を、ちゃんと言ってみよう。謙也さんの目をまっすぐ見て。











きみにラストブルーをあげる
(愛って、捨てたもんちゃうよな)





(0504)





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