変な夢を見た。覚えているのは、目の前にずっと何も言わないように唇を固く閉ざした俺がいた。それだけが印象に残っている。何も考えることなく、そのまま目が覚めた。隣で目覚ましがうるさく鳴いていた。俺は低血圧だから、目覚ましの音で起きないのはしょっちゅうだ。でも目覚ましの音に気づかずに起きるのはめずらしかった。本当に、変な夢だ。


「はよ、財前」
「…おはようございます」


校門に入ったところで白石部長に出くわした。俺の様子を見るなり「今日は早起きやん。なんかあったんか?」と笑顔で顔を覗きこまれる。俺はどうでもええやないですかといつもの悪態をつく。確かに、あの夢で目覚めたせいで2度寝をすることもなく、いつもより早く来れた。もしかしたら、白石部長ならあの夢の意図がわかるかもしれない。一応聞いてみる。


「え、変な夢?」
「はい」
「あー、それやったら俺学校から借りた夢占いの本持ってんで」
「…まじすか」


さすが、この人は変にタイミングがいい。部室に着いたところで白石部長にその夢占いの本とやらで調べてもらった。本のページをぺらりぺらりとめくっていって、白石部長が固く閉ざした唇、と一言つぶやいた時に、指がぴたりと止まった。そして俺を見るなりにやりと笑ってわざわざ答えを見せてくれた。その笑顔ですでにあまり良い結果じゃなかったことはわかったけど。


「…この夢は、不倫など人に言えない恋に落ちる予告で…す、…」
「やってさ。どんまい財前」
「…」


なんやねん。不倫って。人に言えない恋に落ちそうです、って。思った以上に現実味がない答えに少しがっかりした。現実主義者な俺がそんな恋に落ちるわけがない。この本、偽物ちゃいますか?と言ったら白石部長に頭を叩かれた。痛いと言ったと同時に誰かが部室に入ってくる音がした。


「あれ、なんや二人とも早いやん」
「おはよ謙也」
「おはよー」


謙也さんだった。俺たちを見るなり何?何?と聞いてくる。この人に話してもまたうるさくなるだけだから軽く無視をすると、白石部長が謙也さんに話し始めた。友達思いなんだろうけど、この人のこういうところは正直嫌いだ。謙也さんは話を聞くなり大きな声を出して驚いた。「財前そんな恋愛してんの?」って、言うと思ったわ。


「ちゃいます、そういう恋愛をするかもしれんってことです」
「えーすごいなあ」
「…夢占いなんて当たりませんわ」
「アホ、夢占いこそ当たるんやんか」
「…」


やってそんなん、信じたくありませんやん。不倫とか、俺意外とナイーブやのにそんな強調されたら不安になるやんか。そんな恋愛ごめんやわ。絶対したくない。黙った俺にどうしたん?って覗き込んできた謙也さんは、俺の顔を見るなりぎょっとした。「ご、ごめん財前、泣かんといて」と慌てだしたが俺はまだ泣いてない。俺につられて謙也さんまで泣きそうになっているから、よけいに目の奥がじわりとあつくなった。慌てる謙也さんの後ろから「あーらら、何しとんねん謙也」と白石部長がティッシュを渡した。謙也さんはそれを受け取ってごめん、ごめんなと言いながらティッシュで俺の顔を拭おうとする。その手を払いのけた俺に、もう一度ごめんと謝った謙也さん。そのまま近づいてきたかと思うと、ぎゅっと抱き締められた。まるで小さな子をあやすように。すると後ろからも白石部長が抱きついてきて、「これええやん、財前サンド」とわけがわからないことを言ってきた。ちゃかしているようで、慰めてくれている。謙也さんは白石部長の言葉に笑っていた。そしてよしよしと頭を撫でられる。男三人でなにやってんねんと思うのに、なぜか嬉しかった。やっぱり先輩らは優しい。俺がだいぶ落ち着いてきて、もうええです、と一言だけ言って二人に離れてもらったときに、ガチャリと部室のドアが開いた。俺の顔を見てびっくりした千歳先輩にめずらしく早いなと白石部長が近寄っていく。と、謙也さんがこっちこいと手招きをした。


「俺もな、今日夢見てん」
「…へえ」
「財前と、同じ夢」


なぜか照れたように笑った謙也さんを見て、鼓動がドキンと早くなったのがわかった。まさか、と思うけど、そのまま白石部長のところへ駆けていく後ろ姿に少し寂しさを覚えたのは間違いなくて。人に言えない恋に落ちる、って。こういうこともありなのか、と変に納得した。それに、もう恋をしているのかもしれない俺を否定できないのも事実で。夢占いは、もしかしたら本当に当たるのかもしれない。












夢のはなし
(たしかにこれは、人に言えないっすね)





(0330)





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -