n 





「へぇ……あくまで誤魔化すつもりかな? まぁ、それでも構わない。俺がこの本丸に配属されるのだから」
 無遠慮なまでに距離を詰められ、潜められた声が耳元で落とされる。ぞわりと全身が粟立ち、目を見開く私を覗き込むように、その深く被った布の下から、監査官の美しい青い瞳が鋭く細められた。
 それは、つまり。隠し事をしても暴いて見せる、ということだろうか。ああ、どうして私は、こんな失態を犯してしまったのだろう。いや、これまでが順調すぎたのか。私のような異質な審神者が何人いるのか……いや、もしかしたら一人きりなのかもしれないが、きっと油断していたのだろう。バカ過ぎた。今すぐ穴を掘って入りたい程バカなミスをした。念願の優判定を受けて、この一年で初めて気が緩んだのだ。
 それでも私は、ただ一言零してしまっただけだったのに。まだ、誤魔化しが効いたかもしれないのに。焦ると人間ぼろぼろとボロを出すもので。

「……これも、か。配属されると知っていた、か? 驚かないようだ」

 は? ……しまった。『彼が配属されること』も未入手の情報だった!
 駄目だ、落ち着かなければ。パニックを起こす私をよそに、冷たくも感じる抑揚のない声音と口調で告げる監査官はにぃっと口角を上げる。だらりと背を冷や汗が伝ったその瞬間障子戸が開き、「主」と書類を手に戻った私の初期刀、山姥切国広が目を丸くする。
「は? 監査か……あ、あんた、なぜ先にここに」
「何かおかしいか? 評定の結果を直接審神者殿に伝える為、そして特命調査聚楽第の調査報酬を届ける為ここにきた。許可されてここにいる以上、護衛もなく本丸の主が一人でいるところに居合わせようとこちらの非ではない」
「……それは、そうだが。だが」
「切国! 私が、招いたんです。ちょうど今から聞くところだから」
 私の本丸はまだ人数に余裕がない。ただでさえ聚楽第という長期の任務に挑み、その評定結果『優』をもぎ取ったとはいえ、終わった後も仕事は山積みだ。遠征に通常の出陣と内番にと忙しく、本丸内だからと供もつけずに現れた監査官の対応をしたのは私の判断で、この本丸の刀たちの不手際ではないのだ。
 私が慌てて間に入ると、一瞬の沈黙。そして静かに切国が私の隣に足を進めたところで、ばさりと目の前で監査官の布が払われる。
 後ろに流された輝く銀の髪、そして目元を覆うマスクにぐっと口を引き結ぶ。と、突き出されたそれを思わず受け取ってしまい、確かに報酬の受け取りを確認した、とその言葉で、握るそれを……一振りの打刀を見つめた瞬間、ぶわり、と辺りに桜が舞った。霊力がずるりと引き出され、再顕現だ、と気づいたときにはひらひらと桜が舞う中で髪を降ろしマスクを外して素顔を見せた、青い瞳と視線が合う。心臓が増えたのではと思う程、うるさい。

「俺こそが長義が打った本歌、山姥切。聚楽第での作戦において、この本丸の実力が高く評価された結果こうして配属されたわけだが、……さて」

 きみは、このこともしっていたのかな。

 口の形がそう動いた気がして、呼吸を忘れて体を強張らせる。なぜ、私に対し疑念を抱きながらこうして挑戦するかのように顕現を促したのだ。しかし向けられる視線は懐疑的なものではなく、主を得たと、多くの刀剣男士たちも見せてきた、好奇心や喜びすら混じるものだ。そんな彼に疑問を抱かせる結果となったことに罪悪感を感じ、は、と小さく吐き出そうとしたとき、私の隣でも少し遅れて息を飲む音が聞こえたのだった。




next

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -