二話


 二年と半分が経った頃には、極の刀剣もずいぶんと増えた。毎回毎回期間限定の任務が来るたびに地獄の周回をしている甲斐あって、我が本丸はなんとか修行道具のセットを確保できている。
 終戦の兆しは見えない。あいつらはきっと今も虎視眈々とこちらを狙っている。

 聚楽第の調査任務についての情報が入ったのは、そんな時だ。なんと、歴史改変され放棄された世界の調査任務だという。なんでも政府が戦いの長期化に懸念を示してのことだそうだ。判断が遅い、今更か。

 だが、実力を示す機会を無駄にしないことだと顔を隠した監査官だという政府の役人に言われて、行きません、だなんていう筈がない。……あの監査官の気配がどうやら知らぬ刀剣男士であることは気にかかるが。

 三近侍全員が極め、とくに極めた打刀を中心に練度上げしている最中。長期期間本丸を開けることになるだろう聚楽第出陣部隊隊長に、私は悩んだ末に山姥切国広を選んだ。薬研は聚楽第任務中も行われる通常任務の夜戦部隊に参加するため不在がちであり、その間大倶利伽羅が私の近侍となる。遠征も回さねばならず、どこか本丸内は慌ただしい。
 本丸襲撃もないとは言い切れない戦時だ、偏らないよう編成に悩み、出陣したくてうずうずしている極めた刀剣男士たちを宥め通常任務もこなしつつ、総隊長の留守を言葉少なではあるが大倶利伽羅が務め上げ、慌ただしい日々を過ごし、その日はやってきた。

 長く本丸を開けた長期任務部隊、山姥切国広極、鶴丸国永、物吉貞宗極、愛染国俊極、五虎退極、宗三左文字極が、監査官の判定優を、そしてその功績により刀剣男士を一振り得て帰ってきたのだ。その男士こそ、あの顔を見せずに厳しいことを口にしていた、監査官である。

「俺こそが長義が打った本歌、山姥切。聚楽第での作戦において、この本丸の実力が高く評価された結果こうして配属されたわけだが、……さて」

 ああ、そうか。彼が山姥切。我が本丸の初期刀、山姥切国広の、本歌。
 山姥切がとうとう本丸に来たのだと、その目を見て息を止める。……なんて美しい色なんだろう。刀剣男士たちは皆美しい神だが、涼しげな色彩を持つ惹きつけられる瞳に目を奪われ……すぐ、瞬きすることで常を取り戻す。

「……ようこそおいでくださいました、山姥切長義。聚落第の任務ではお世話になりました、監査官様」
「この本丸の審神者は霊力が高く察知と浄化に優れていると聞いていたけど、さすがといったところかな。やっぱり気づいていたようだね……そういえば、この本丸はそこの彼が初期刀だったかな?」
「はい」
「……やぁ、偽物くん」
 隣に並ぶ国広が一瞬きょとんとし、すぐ「写しと偽物は違う」と訂正する。が、そんなことは知っているよと言う彼は遺恨を隠しはしないようだ。なにかあるだろうなとは思っていたが、この美しい刀はどこか苦しそうだというのが第一印象となった。
 逆に、極めただけではなくもともと妙なところでどしんと構えたところのあるうちの総隊長は、その山姥切長義の感情の揺らぎを察知しながらも動揺を見せず、時間をかけて話をしていくつもり満々のようだ。その余裕がかえって相手を刺激している可能性もあるが、国広には国広の、本歌には本歌の言い分がある筈だ。主という立場であっても、人でない何かであったとしても、仕事に支障が出ない限りは私が簡単に口を出していい問題ではない。見守ることに決め、私からは特に何かすることはなかった。……の、だが。

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