一話


※何度も注意書きしてありますが、あらゆる独自設定を詰め込んでいます。
※長義が出るまでかなりまとめてあります。
※全体的に方言がやや怪しいです。



「初期刀山姥切国広、初鍛刀薬研に、次の鍛刀は大倶利伽羅」
『その三人は、あなたの正体については?』
「話したよ。私は力の大部分を押さえることになるから、協力してもらわないことにはどうにもなりませんから。三振りとも納得してもらってます」
『こんのすけもそちらの担当は改良済みです。順調ですね。私も希望の地位にはもう少しで届くと思うのですが』
「ごめんなさい、ものすごく面倒そうなほうを任せることになって」
『いえいえ、こちらこそあなたを前線に立たせるようで心苦しいのですが。本丸が与えられると言えど、あの場は完全に安全なわけではありませんから。何より我らの敵にあのような守りは関係ない。一応侵攻が確認できた時点で連絡は入れますが……』
「大丈夫、結界くらい二重に張れる。こんな時に無駄に多い力を使わなくてどうするの」
『……ご武運を、というのでしたね。この国では。では、ご武運を、サニワ名』



 そんな、あえて一番大切なことに触れず会話をしてからまだ一年しか経っていない。それでも一年。与えられた本丸は、既に五十振り以上が顕現し賑わっていた。最近ではなかなか迎えることができなかったいち兄こと一期一振をとうとう迎えることができて、粟田口を中心に本丸がとても賑わっている。その様子だけを切り取ってみれば微笑ましく、ほんのひとときでも戦時中であると忘れることができそうだ。

 私はこの世界の人間ではない。制限は多いが人から見ればこの立ち位置は神に近いものであるだろうが、潜入時にほとんどの能力は封じてあるのであまり関係ないことか。
 最初の三振り以外に正体を隠し、審神者として、いや人間としてこの地に潜入して一年だ。霊力こそ多いが最初はその扱いに苦労したし、小さい頃は病弱で引きこもっていた世間知らずという設定で常識のズレに対応してみたが、思った以上に人の身というのは窮屈なものだった。
 それでもこれは私の使命で、私は今人としてこの世界で起きている歴史修正という禁忌を犯す人間たちとの戦争にこの身を投じている。といっても実際戦っているのはこの世界の付喪神、刀剣男士たちだが、私は彼らを介してでなければこの戦に参入することが叶わなかったのだから仕方ない。
 私はある目的の為にこの世界にお邪魔している形なのだから。


 審神者の仕事はやることが多く、複雑だ。
 鍛刀して、もしくは戦場で救い集めた刀の依り代に刀剣男士と呼ばれるこの戦に協力してくれている付喪神の分霊を降ろす。刀剣男士は人型という自らを振るう術を得て現れ、これが審神者なるものの能力なのだそうだ。
 そうして彼らを人の身に慣れさせながら戦いの指揮を執り育て、過去という戦場で歴史を改変されないよう敵と交戦する。言葉にするとそれだけだが、刀装を作って装備させることで勝負を有利なものとし、刀剣男士が傷つけば手入れをして、戦場の情報を集めて出陣先を決め、記録を紙に綴るという形で残す為の書類仕事もある。他にも演練場に向かい他本丸の刀剣男士たちと腕試し、時折情報交換の為の会議や、内部での問題を片付ける為の特殊任務もあったりと、忙しい。
 これを本丸という結界に守られた、しかし閉ざされたある種の神域で生活しながら行わねばならないのだから、神職ならまだしも一般の人間が行っているというのに始めはひどく驚いたものだ。

 それでも一年、必死に日々を過ごしたこともあって、漸く生活基盤は整い始めた。

 私の仕事は本丸の中央奥、執務室で行うが、私室はそこよりさらに奥、本丸の背後にある自然の森の手前にある離れである。
 離れと言っても本丸程ではないがそこそこ立派で、やや洋風だ。一階にはリビングダイニングがあり、キッチン、客室二部屋の他にも浴室やトイレがある。また二階には私の私室とそれに繋がる寝室、浴室、トイレがあり、私室に入れば引きこもることが可能な素晴らしい間取りはあえて増築したものだ。さらに空き部屋が一つ。しかも隠されてはいるが、地下にも実は広いスペースをとってある。小規模本丸と言ってもいい。本丸の増築も行ったが、なぜ離れにこれほどの設備を整えたのか。副業的なことをしたがかなりの資金と霊力を投資して作った離れは、私の正体を知る三振り以外は入ることができない、私の本業に関わる品も置かれたある種の拠点だ。刀剣男士たちを信じていないわけではないが、今はまだ『許可』が下りない。政府にも『正体』は隠さねばならない。だからこそ三振りに協力を頼み、この拠点の用意と距離感を確立したのだ。
 三振り以外の男士たちが不安を抱かぬよう彼らをリーダーとしてはいるが平等に、うちの本丸の刀たちの練度は刀種関係なく軒並み高い。政府から余計な任務が来るようになり始めたが、報酬も私に協力してくれる刀剣男士たちの為になる。

 はやく、はやく。あいつらがやってくる前に。たとえ絶望的であろうとも、手を休めることなかれ。



「どこにいく」
「え、執務室です。大倶利伽羅はどこへ? 今日非番じゃ?」
「そうだ。どこにいようが俺の勝手だろう」
「ふふ、自分が聞いておいてそれはひどい。離れを使いますか?」
「……いや。執務室の隣に行く」
「ああ。本を増やしておきましたよ、漫画もだけど」
「そうか」

 そのまま大倶利伽羅と執務室に向かう。彼らは離れへの出入りを許可しているのだが、今日は執務室の隣に作った近侍や遊びに来た刀たちの休憩部屋で大倶利伽羅は過ごすつもりらしい。
 その部屋で主に過ごしているのは初めの三振りだ。他の刀剣たちも三振りのことは『三大近侍』と呼び一目置いているようで、特に初期刀の山姥切国広を『総隊長』、初鍛刀の薬研を『懐刀』、大倶利伽羅を『側近』と認識しているらしい。私も必ずこの三振りの誰かをそばに置いていることが多いので、あながち間違いではないか。
 ただ最近は仕事も多く、希望もあることから三振りの誰か+近侍を指名しており、書類仕事が苦手だとする者でもある程度時間を共にするようになった。特にへし切長谷部や博多藤四郎は計算や書類整理が得意でよく手伝いに来てくれていて、日々仕事は無理なく進んでいる。……政府からの無茶ぶりな仕事がなければ、だ。

 大倶利伽羅が本棚に向かったのを確認して、そろりと懐から取り出した錠剤を口に放り込む。人でない私は、人である為に薬が手放せない。は、と小さく『痛みを逃す為に』息を吐きだして歯を噛みしめる。大丈夫、ばれてない。

 はやく、はやく。あいつらがこの世界に来る前に、願わくば終戦を。

 初期からの審神者ではないが、備前に配置された私はそこそこ早い就任である。審神者になるものは、さまざまな事情を抱えていることも多い。それは気づかれていなかろうと人外の私も例外ではなく、きっと敵もそうなのだ。それぞれの正義、それぞれの守るべきもの、それぞれの想いが戦場に吹き荒れているからこそ、そこにひっそりと、人知れず、漁夫の利を狙う『あいつら』は現れる。

 私の敵はまだ現れていないが、日々はそれぞれの正義のために激しく苛烈に過ぎ去っていく。きっとそれはこれからもそうで、毎日が忙しいのだ。

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