2021/05/05


 提示された支払金額は思った以上に安くて、本当にいいのかと聞けばレジナさんは「むしろこれくらいさせておくれ」と申し訳なさそうに眉を下げる。
 あの猟師さんに腹は立ったが、別にレジナさんがここまですることはないのに、と何となく申し訳なくなり、ふと思いついてポーチから小瓶を一つ取り出す。

「それじゃこれ、サービスで置いて行きます」
「あ、それ、いつものシロップ薬だね! 助かるよ」

 手渡したのは、体の疲れを取る為のシロップだ。それを見た零さんが何とも言えない顔をしていてつい笑ってしまったが、からからと笑ったレジナさんは「悪いとは思ったけど、子ども用に作って、なんて我儘言ってみるもんだね」と爆弾発言を口にした。その瞬間、さぁっと血の気が引いた音を聞いた気がする。零さんの方を振り向けず固まった私の隣にすっと並んだ零さんの声が、やや低い。

「……子ども用、ですか?」
「そうさ、いつもの薬があんまりにも苦いもんでね、子どもも飲める薬はないかってあたしが聞いたら、作ってきてくれたんだよ。それ以来村じゃこの薬じゃないと飲めないってやつが多くてね、すっかり馴染みのもんさ」

 いや待って。確かにそれは子供用に欲しいという声から作るようになった薬だが、すっかりそちらが人気になってしまって元の苦い薬はストックがないのだ、だとか、そっちの方が飲みやすいと思っただけで、とか、いろいろ言い訳が浮かぶが、背筋がひやりと冷えた気がして何も言えない私の肩が、がしりと大きな手につかまれ引き寄せられた。

「それではまた来ます、よろしくお願いしますね」
「待ってるよ!」

 にこにこ笑顔の零さんに促され肩を支えられて歩く、なんて状況にレジナさんが微笑ましそうに見送ってくれるが、私は近づく森の入り口が地獄への扉に見える。やだ怖い。

 柔らかな声で、名前を呼ばれた、その瞬間。

「すみませんでしたぁああ!」
「あ、こら待て! 聞いてないぞ、あれ子ども用なんじゃないか!」

 ことあることに薦めてきてた理由を言え! と追いかけてくる足音の近さに、ウォルフより怖い! と言って火に油を注いだ私が逃げ切れたかどうかなんて、お察しである。



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