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 大きなホイッスル音が鳴り響いて練習終了を告げれば、今までグラウンドを走り回って個々の技を磨き合っていた足も止まり、今度は揃ってベンチへと方向を変えて動きだした。佐久間や成神が連続で繰り出すシュートを受け止めて練習していた俺も、ハッとした様にベンチへ向かい、手伝ってくれた二人の分のドリンクとタオルを確保する。感謝の意味を込めて手渡せば、素直に受け取って喜ぶ成神と、当たり前の事だと女王様みたいな笑顔を浮かべる佐久間の顔があまりにも対照的で、少し笑った。

 その時たまたま視界の端にチラリと揺れて映った、独特の髪の毛の主に何故か心臓が跳ねるのを感じる。場違いな鼓動に違和感を感じるも、その姿を今度はしっかり捕らえれば、咲山と一緒になって辺見をからかう不動だった。以前に比べて感情を素直に表現する様になった不動は、近頃他のメンバーとの距離を縮めたらしい。今では佐久間達と気の許せる悪友な様だし、鬼道とも作戦を練る為に話し込んでいるのも度々見かける。


「まぁたお前は不動見てんのか」
「へ、あ、佐久間」
「源田先パイは不動先パイの事、ずっと母親みたいに面倒見てましたもんね。我が子がしっかりやってるか心配なんでしょ」
「あぁ、源田ママは我が儘息子に激甘だったな」
「お前ら人を何だと…まぁ仲良くしているのは良い事だと思うけどな」
「やっぱ母親目線じゃねぇか」


 ケタケタと可笑しそうに笑う二人の笑顔があまりにもいたずらっ子の様に無邪気で、思わず溜め息が出た。確かに一人で何でも背負い込んで人を信じようとしない不動を見かねて、今まで沢山お節介はやいてきた。不規則な食生活に子供っぽい味覚、睡眠時間も惜しまず練習して、体に悪いと叱った時の不動の驚いた顔は今でも忘れない(鬼道まで鳩が豆鉄砲くらった顔だった)確かに佐久間達が言う通り俺は母性に近い保護欲は人よりも強いが、それは他のメンバーに対しても同様だ。

 問題なのは俺自身が不動を気に掛けたり目で追ってしまう理由がそれだけでないと言う事。不動よりも昔から世話をやいてきた帝国の女王様である佐久間に対しては、ふとした時に不動に感じる゙可愛い゙だとが抱き締めたい゙といった欲求が出てきた事が無い。容姿だけで言うなら佐久間の方が可愛いらしいし、そう感じてもおかしくは無いのだが。

つまりこの葛藤の結論を言えば、俺はどうやら不動に対しで恋心゙を抱いている様なのだ。


「不動に、なぁ…」
「ん、今何か言ったか」
「いいや何も」
「あ、源田先パイ、不動先パイが手ぇ振ってるっスよ!」
「何、息子もママが大好きってか…ぎゃはは!辺見やべぇ!」
「凄ぇ、咲山先パイどうなってんスか!俺もやりたい!」


 後ろからやってきた鬼道の問いにシラを切る様に返事をして成神の指差す方向を見ると、口元に手をやり笑いながらこちらに手招きする不動と逃げ回る咲山、そして被害者であろう額をいつも以上に光らせて咲山を追い掛ける辺見の姿があった。成神は興味津々といった様子でかけより、隣の佐久間が腹をかかえて笑いながら崩れ落ちる様子を苦笑しながら見つめる鬼道。俺も小さく笑みを浮かべながら不動へと近付くと、可笑しそうに口元を歪めながら耳打ちをしてきた。


「辺見のタオルにオイル仕込んだらさぁ…はっ、あいつ気付かないで顔拭きやがったんだよ」
「全く、からかいすぎるのも程々にしろよ?」
「とか言って源田も笑ってるくせによぉ、てめぇも同罪だかんな」


 意識を始めると、途端に不動お得意のニヒルな笑みも愛らしく見えてきた。その小さな口から出るのは憎まれ口ばかりだが、いつかは俺を恋愛対象として認める言葉が出るのだろうか。
なんて考えていれば、殴られた様子の咲山と不動に目的を変えた辺見に小さくヤベ、と呟いた不動が俺の背中に逃げ込んでくた。俺のユニフォームを掴んで、やってくる辺見から身を守る様に操る不動が最早可愛くて仕方ない。


「てめぇ源田に守ってもらうのは狡いだろ!おとなしく殴らせろ!」
「煩ぇな、光ってんのはいつもの事だろうが!ママ助けてー、辺見が苛めてくるー」


…恋愛対象にはまだ程遠い様だ。



 直線上に存在出来ません
(おい、源田ママ顔色悪いぞ)
(…ママって言うな)


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