ジーザス! | ナノ


 俺は只今非常に胸くそ悪い。゙俺゙や゙胸くそ悪い゙なんて汚い言葉を使うと、また風介が口煩く叱ってくるだろうけど今はそんな事もどうでも良い。学校帰りに寄った可愛らしい外装のお気に入りのドーナツ屋さんで、これまたお気に入りのふわふわしたエンゼルフレンチとコーラが目の前にあるのだが、一口で食べる気を失った。短めのスカートがヒラリと捲れそうな事も気にせず足を組み換えて、視界の端にあるキラキラした携帯に表示された時間を見ればあまり時間はたっていない。

 落胆の意味を込めた小さな溜息を吐き出すものの、俺の不機嫌の原因となった本人は全く気付いてはいない。目の前で照れた様にガシガシと髪を撫でる可愛い幼なじみ兼、親友兼、姉妹の様な風介が放った強烈な一言は、馬鹿みたいに純粋に俺を驚かせたのに。


「はぁ…まさか風介が基山を好きだなんてな」
「なっ、好きだなんて言ってないだろう!私はあいつが最近気になると言っただけで…」
「でもあんな天然に見せかけた腹黒そうなタラシ、風介のタイプじゃなかっただろ」
「確かにそうだが…ヒ、ヒロ、トは晴矢が思っているより、悪い奴じゃないよ」


 アイスティーに刺さったストローを忙しなくクルクルと掻き混ぜる風介の姿がまるで恋する乙女みたいで、思わず目眩がした。つか何で名前呼びなんだよ何時の間にそんな親睦深めてんだあいつ。風介のハートを居ぬいたらしい同じクラスの、女子からは王子スマイルと呼ばれる程の(俺からしたら胡散臭い)笑みを浮かべた基山の顔が頭の中に浮かんできた。

 そもそも俺は強がりで泣き虫でツンデレで、けれどとても純粋なこの親友を馬鹿な男から守る為にこの十数年間を費やしてきたのに。その包囲網をすんなりと掻い潜った基山が不思議で堪らないが、同時に奴に対する警戒心はグンと高まった。


「…つか何で基山なんだよ」
「それは…先々週位前に私が委員会だったから晴矢一人で帰っただろう」
「あぁ、待ってるって言ったのに遅くなるから良いって言い張ってたやつな」
「そうそう。しかもその時は雨が降ってて…私は傘を持ってなかったけど晴矢は折り畳みだったから入れてもらうのが忍びなくて、雨宿りして帰ろうとしてたんだ…そうしたら」
「…基山が傘に入れてくれたと」
「入れてくれたって言うか傘をくれたんだよ。自分は家が近いからって言って…でも後から円堂に聞いたら家の方向が私達と同じらしいんだ」
「………はぁ」


 つまり風介の話を要約すれば、基山は困っている風介を見兼ねて傘を貸そうとしたらしい。でも只それだけなら俺の教育の結果に加えて元々の人見知りの激しい風介は知らない奴に対する警戒心が強いから、そんなものは受け取らないだろう。それを知ってか知らずか又はその空気を感じとったのか、基山は嘘を吐いてまで風介が濡れて風邪をひかない様に傘を渡したそうだ。

 そんな奴が今どき居るのかと首を傾げそうになったがあいつの普段のフェミニストぶりを見ているとそれも何だか頷けるなと妙に納得した。寧ろ俺に比べて女の子らしくか弱い風介に手を出さず(結果的には出してるが)傘を差し出した優しさには、少しだけ俺も感謝をしたくなった。


「…でも何で今わざわざ俺に報告するんだ?気になるならお礼言ったら良いじゃん」
「だ、だって私こんな経験無いからどうすれば良いかわからないし、それに晴矢には隠し事とか嫌だったんだ」
「風介は純粋な箱入りだからな」
「それに親友には恋バナ、か?するのは当たり前だってマキュアが言ってたし」


 そういってまた不安そうに、けれど照れた様に髪を撫でる風介を見ていると切ない様な嬉しい様な、とにかく心臓がキュンキュンして思わず抱き締めたい気持ちになった。親友なんて珍しい言葉が聞けたのも、マキュアの入れ知恵とあいつのおかげかと思うと微妙な気もするが、まだまだ頼られる内は俺のものである可愛い親友を渡す気も更々無い。残りの少し固くなったエンゼルフレンチを口に入れて炭酸の抜けたコーラで流し込めば、荷物を引っ掴んで席を立ち上がった。


「晴矢、どうしたの?」
「…恋愛初心者な風介に色々と教えてやるよ。取り敢えずあいつから告白する位可愛いくしてやるから、今日は沢山買い物しようぜ」
「っ、うん!」
「ははっ良い返事じゃん」


 男の子に生んでくれなかった神様にぶちギレた事もあったが、もう嘆く必要は無い。男なんかよりずっと側に居れるなら、このポジションもなかなか悪くねぇな。



 ジーザス 神様このやろう!
(化粧なんてしなくても…)
(絶対そっちのが可愛いって!)


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