月下のランデブー | ナノ


 草木も眠る丑三つ時なんてベタ過ぎるけれど、俺は誰もが眠りにつくほど静かで冷たい真夜中に動きだした。可愛らし小鳥の囀り声ではなく、梟の心地よいほど不気味な鳴き声で目を覚まし、重たいベッドの蓋をズリズリと開ける。欠伸をすれば顎が外れそうになったので慌てて下から押さえつけながら、他に"緩く"なっている所は無いかと探す。腐った肉が落ちて烏に食われる前に、縫わなくちゃいけないからだ。

 蜘蛛の巣だらけで薄暗い部屋の、唯一の家具である鏡台に近寄り、顔色をチェックする。…うん、今日も青白い上に緑がかった良い肌だ。無造作に掛けられた泥や埃で薄汚れているけれどまだマシな方のコートを羽織って外に出た…と言っても俺の部屋は地下にあるので、長ったらしい階段を地道に上って(途中ミミズを踏ん付けた)久し振りの地上に一歩踏み出した。


「外の空気はやっぱ良いねぇ…地下じゃカビ臭くても、こんな風に身も凍る冷たさは無ぇからな。」
「…だからいつも、地上に住めば良いと言っているんだ。」
「わぁビックリ、鬼道ちゃんじゃねぇか。今日は金魚のフン…間違えた、佐久間は居ねぇの?」
「佐久間は小鳥遊の所に行ってる」
「ひゃはっ!魔女の所に行ってるなんてな。薬盛られねー様に気ぃつけろよ」
「なっ、口を謹め不動!」
「へーへーすいませんね…天下の吸血鬼サマが化け猫に"にゃんにゃん"鳴かされてるなんて言われるのは恥ずかしいよなぁ?」


 頭に付いたまんまの枯れ葉を払いながら痛い位口角を釣り上げると、鬼道ちゃんの額に血管が浮かび上がって真っ赤に頬を染めながら低く唸り出す(あ、やべぇ)ちょっとした身の危険を感じて、腹いっぱいに空気を吸い込めば一気に吐き出して、暫くぶりなあいつに聞こえる程のSOSを出す。

 そうすれば、1分もしない内に遠くからガサガサと草を掻き分ける音と共に、満面の笑みを浮かべたデカイ図体が俺に向かって両手を広げて飛び掛かってくる訳…ホラ来た。


「―――…不動っ!」
「っ痛ぇよ馬鹿、相変わらず忠犬ハチ公も驚きの素早さだな」
「不動の匂いがしたからダッシュで来たんだぞ!」
「いつもの事だろう。…わざわざ満月に合わせて出てきた上に直ぐ源田を呼ぶなんて、お前も大概甘いじゃないか」
「うっせぇよ、佐久間が忍ン所行ってるからって俺らに当んなよな」


 嫌みな鬼道ちゃんにベーッと舌を出して負けじと嫌みで応戦すれば、目の前の愛しい獣が構ってくれずに寂しい…みてぇな顔をしていたので、嫉妬して拗ねだす前にその長い髪を引っ張って耳元で囁いてやる。

 そうすれば大きな茶色の耳はピンと立ち上がって、頬が緩みっ放しであろう俺を優しく抱きかかえたかと思えば、鬼道ちゃんに向かって申し訳なさげに言った


「っすまない鬼道、用事を思い出したから話の続きはまた今度にしてくれないか?」
「へ、あ、あぁ俺は構わんぞ」
「明日…や、明後日そっち行くから化け猫と魔女も呼んどけよ、久々に飯でも食おうぜ」
「わかった、用意させよう」
「あ、でもトマト料理だったら手前の顔にぶん投げるからな?腐りかけの肉出せよ」


 クスクス笑いながらマントを翻して、鬼道ちゃんは答えないまま暗闇に消えていった(俺は本気だってのに)でも漸く久し振りの恋人と二人きりになれたわけで…先ほどから"待て"をしている忠犬にご褒美をくれてやろうと思う。



 月下のランデブー
(取り敢えず、何してぇ?)
(お前と一緒なら何でも)


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