君が僕を好きになるまで | ナノ

*ジーザス!の続き。
時系列的にはこっちの方が先な、ヒロト目線のお話。


 赤と白の対象的な髪に正反対な性格、それでも誰よりも互いを信頼していて、端から見ても親友であり姉妹の様な二人を知らない人はこの学校に居ない。情熱的な赤い髪をなびかせて、短いスカートから惜しげもなく健康的な足を覗かせる南雲さんは、見た目は今時だが男女共に好かれる明るくて面白い子。一方白い髪をフワフワと揺らしながら、改造も何もしていない制服を規則正しく且つ綺麗に着こなす涼野さんは、クールな性格で勉強も出来る高嶺の花の様な存在だった。

 周りの思春期全開な男子生徒は南雲さんの年齢に似つかわしくない体つきや誰にでも気さくな性格に変に勘違いをして、目で追い掛け回したりしているのだが、僕は生憎彼女が苦手だ。何故かと言われれば理由は至って単純で、彼女が溺愛している親友は僕にとっても溺愛する対象であり、南雲さんのガードによって涼野さんに近付こうとする男は屍となって帰ってくると言う噂がある程の過保護っぷりなのだ。おかげで中学に入ってから彼女と話したのは、数える程しかない(しかも事務的な伝言だけ)


「…雨降ってきた」
「うぇー俺傘忘れちゃったよ、ヒロト折り畳み貸して」
「ごめん、貸してあげたいのはやまやまだけど、今日は一つしかないんだ」
「そっかぁ…砂木沼さん二つ持ってるかな」
「どうだろうね」


 授業を終えた後のホームルームで長ったらしい担任の連絡事項を右から左に聞き流しながら、愛しのあの子(+お邪魔ムシ)の事をぼんやりと考えていると、窓にポツポツと雨がくっついていた。前の席に座る緑川が落胆の声を漏らしていると(今日はデートらしい)日直の号令がかかる。いつの間に、なんて思いながらもカバンを手にとって、部活も無い事だし読みかけていた本を見に行こうと図書館へ足を運ぶ。途中で砂木沼さんとすれ違ったので緑川なら掃除ですよと伝えれば、照れた様に小さく頷いた彼女が少しだけ可愛いと思った。


―――――……


「あれ、もうこんな時間?」


 ふと時計を見れば、図書館に入ってお気に入りの場所で本を読んでいる内にかなり時間がたっていた様で、先程迄は小雨だった空も今はキツく地面に叩きつける様に降っていた。瞳子姉さんが言った通り傘を持ってきて良かった…なんて思いながら帰ろうと下駄箱に向かえば、思わぬ人物を発見してしまった。

 なんとそこには、珍しく一人で空を眺めながらたたずむ涼野さんが居たのだ。困った様な表情からして傘でも無いのだろうか、いつも一緒に帰っている南雲さんは何処なのだろうか、と思考を巡らしている内に、またとない機会だと欲求に素直な体は勝手に動いていって、口を開いた。


「どうしたの涼野さん」
「ん…?あぁ、基山君か」
「あ、名前覚えてくれたんだ」
「名前位知ってるさ」
「ならヒロトで良いよ…ところで涼野さん、傘無いの?」
「……う、ん」
「じゃあコレあげる」
「え、でもそうしたら君が困るだろう?」
「僕は家近いから大丈夫だよ」


 本当は涼野さん達の家と同じ方向だけど、人見知りが激しそうな彼女と一緒に帰ろうなんて馴れ馴れしい事は言えないから無理矢理傘を渡す。するといつものクールな表情を崩して慌てながら返そうとする涼野さんにちょっとした優越感を感じながら、また明日ね!と手を振って駆け出した。

少しくらい強引じゃなきゃ記憶に残らないよね、と走りながら打たれた雨が思っていた以上に冷たいけど、後ろから呼ぶ涼野さんの声は、ヒロトって呼んでくれた気がして胸がふんわり暖かくなった。



 君が僕を好きになるまであと、
(けれど現実は甘くなくて)
(次の日見事に風邪をひいた)


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