変態的興奮材料 | ナノ


 スクール水着、と言うものを知っているだろうか。無論、私が言いたいのは小学女児や義務教育中の女子生徒が水泳の時間に着用する、黒に近い紺色の水着の事だ。そのスクール水着は通称スク水等と呼ばれており、教育の一貫として使用するそれはマニアックな性癖や思考を持つ男女からは人気の品物であり、魅力的な存在であるらしい。

 しかしながら今こうしてスク水について語る私は、その様な思考を持った事もこれから持つ様な事もない。けれど私の自室のベッドの上に居る、何時入ったのかもわからないこいつはその水着を手にして腹立たしい程の笑顔でこちらを見ているのだ。因みに゙こいづとは、あの円堂守に対してストーカー擬いの執着を持ち、端から見れば優しげな笑みを常時浮かべる少年の面を被った只の変態、基山ヒロトである。

 付け加えるなら(誠に恥ずかしながら)彼は私の恋人でもあり、私自身も冷静に考えれば何故この様な親密な関係を持ったのかわからない。彼の持つ不思議なペースに流されて、あれよあれよと言う間に恋人ポジションに居座られていた。…話が大きくズレたので訂正するが、今重要なのは恋人云々の件では無く、何故彼が先程述べた様なマニアックな代物を持って、私の、自室に居るのかと言う事だ。今のところ全くもって現状が理解出来ない。


「…一応聞いてあげるけど、それは何の為に持っているんだ?」
「勿論風介が着る為だよ」
「訂正しよう、今すぐ出ていけ」
「つれないな、最後まで聞いてよ」
「最後まで聞いた所で私に何のメリットも無い上に、大切な何かを失う予感しかしない」


 もし私が心労から来る体調不良で倒れる事があれば100%こいつのせいだろう。それほどまでに彼が(笑顔で)持ってくるものは大抵ろくなものが無い。常に変態の相手をしている流石の私も、コスチュームプレイの幕開けとなるのが女子生徒の水着などトラウマにしかならないだろう。だからと言って、以前にも同じパターンで出された長めのメイド服を着る気は更々無い事も理解して欲しい。

 わざとらしく頬を膨らませて文句を言う彼に溜め息を吐きながら、手の中で広げられたそれをもう一度見やる。何度見てもそれは明らかにサイズが小さく、中学生男子として平均的な体格の自分が着たところで何の面白みも無いだろう。どうせならスタイルの良いウルビダやボニトナに着て貰った方が充分魅力的だし色っぽいのに、と思う。


「何もしないから着てってば」
「嘘だね、私はもう君の様な変態の言う事を素直に聞かないと決めたんだ」
「ちょ、ちょっと待って、ユニフォームの下にでも良いんだよ!」
「ユニフォームの、下?」


 騒ぐ馬鹿を無視して部屋から押し出そうとする私に、慌てて出された条件に思わず首を傾げた。今までの彼の思考なら水着を着てお風呂に入ろうだとか、脱がしたいとか言うのだと思っていたけれど指定したのはユニフォームの下。わざわざ服の下に着せるなんて、不純な動機が無いのかとほんの少し見直したが、彼の小さく呟く声が気になってそっと耳を傾けた。


「ユニフォームの下から覗く紺色に隠されたお腹…体を伸ばせば浮かび上がる水着の線に、風介の程よい肉付きで未発達な四肢が包まれていると思うだけで興奮する」
「やっぱりお前はそんな奴か、私に暫く近付くな変態が」



 変態的興奮材料
(じゃあセーラー服は?)
(別れてやろうか)


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -