美味しそう | ナノ


 季節外れの物は大体風情があったり贅沢だと感じる物が多い。冬の花火は粋だとか、夏に食べる辛くて熱い物は旨いだとか。そして今まさしく俺と不動は二人で炬燵に半身を潜りこませた状態で、外の雪がちらついている寒さなんか素知らぬ顔して、季節外れのアイスを頬張っていた。

 そもそも、今の時期には似つかわしくないアイスを食おうと言い出したのは不動だった。あまり甘い物を食べてるイメージの無い不動が(バナナは別物として)そんな事を言うのは珍しいと、心優しい俺はくそ寒い練習後の帰り道にわざわざコンビニに寄るのに付き合って、隣のオッサンがおでんを買っている横でアイスをお買い上げしたのだ(あの時の心境ったら何とも言えない気まずさだった)


「…あ、アイス代返してねぇ」
「んな事別に良いだろぉが」
「いや、こういうのはちゃんとしとけって前に鬼道さんが言ってたし。ほらよ」
「まぁた鬼道君かよ…んっ」


 炬燵を挟んで向かい合う状態で思い出した様に呟けば、百円のチョコソフトを選んだ俺とは対象的な白いバニラソフト(牧場何とかの良いやつ使った高いの)を食べる不動は至極どうでも良さそう且つ面倒臭そうな表情をしていた。けれど俺はそんな事構わずに、財布の中から出した百円玉を不動の手のひら押しつける。例え親しい間柄でもちゃんとしなくちゃいけない事もあると言っていた鬼道さんの真面目な顔を思い出しながら再びアイスに噛りつけば、暖房によってほんのり溶けだしたチョコレート味が冷たい液体となって唇に伝ってきた。

 慌てて溶けた部分を舐めれば、一先ずは垂れて炬燵布団にシミを作る心配無くなったと安堵する。この様子だと一緒に買った不動のも溶けてんじゃねぇかと何気なく視線を戻せば、冷たさで赤くなった舌で同じく溶け出したバニラアイスを零れない様にベロリと舐めた瞬間だった。


「うっわ、不動の食い方エロ」
「はぁ?…バニラアイスに変な妄想掻き立てられてんじゃねぇよ、この中二病」
「煩ぇよモヒカン…あ、良い事思いついたぞ!」


 俺のやましい思考に感付いた不動が小馬鹿にした笑いを浮かべながらも、アイスを食うのを止めない姿にピンと閃いた。
何をだと言う前に、手にしていたチョコソフトをべちゃりと不動の口元に押しつける。突然の事にますます意味がわからず目を見開く不動が、何すんだてめぇ!とお得意の暴言を吐き出す前に、白と黒のマーブル模様をした唇に噛み付く様に口付けた(勿論抵抗しない様に足と手は押さえ込んで)


「っ!?ん"ん"ん"ーっ!」
「――っぷは、ご馳走様」
「何すんだてめぇ!意味わかんねぇ一回死ねよ万年発情期!」
「はぁ…?んなの決まってんだろ」



『美味しそうだったから』
(黒と白ってほら、ペンギンさんみたいだろう?)
(…せめて俺等みたいって言えよ)


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