※社会人、同棲
仕事帰り、赤司はいつもより足早に自宅を目指す。夏の暑さも随分とおさまり、朝夕は肌寒ささえ感じる季節となった。自宅のドアには鍵はかかっておらず開ければ中から美味しそうな空気が赤司を出迎えた。
「あ~赤ちんお帰り~」
「ただいま、遅くなって悪かったな」
「んん~グッドタイミング」
二人用のあまり大きくないテーブルには、乗り切らないほどの料理が並べられていた。
全て紫原の手作りだが、同棲を始めた当初は全く料理など出来なかった紫原が人並みには料理のできる赤司よりも今では何倍も上手になっていた。もともと食べることが好きだったが、「美味しい」と言ってくれる相手がいることでモチベーションが上がるのだろう。赤司もその点については意外に感じていた。
「すまないな、いつも敦にばかり料理を任せてしまって」
「いーのいーの。俺が赤ちんに食べさせたいから~。それに今日は赤ちんと住むようになってちょうど一年だしね~」
「意外だな、敦がそんなことを覚えているなんて」
「ま、自分の誕生日だしね~」
「ふふ、それもそうだな。誕生日おめでとう」
「ありがと~」
赤司は手にしていた土産をテーブルに置き、紫原に屈むよう手招きをし、紫原の頭を撫でた。
「...え~、ちゅーかと思った」
「それはまた後でな」
赤司は着替えを済まし、二人はテーブルにつく。赤司は紫原のために買っておいたプレゼントを手渡す。赤司が選んだのは、マフラーだった。春前にたまたま乗った電車で空調が暑く感じた紫原はマフラーを外し、そのまま電車に忘れてきた、ということがあった。駅に問い合せても見つからず、新しいものを買うように言われても、もうすぐあったかくなるからと結局マフラーがないまま冬をこしたのだ。
「あまりにもベタかと思ったんだが、敦、マフラー無くしただろう?さすがにこれから無いと困ると思って」
「そうだったね~。ありがと赤ち~ん...けどこれなんか凄い高そうな雰囲気が漂ってんだけど」
「?そうでもないぞ。どうした、気に入らなかったか?」
「ん~すげー嬉しいよ~ありがと。(これ以上は聞くのやめとこ~...)」
後はこれな、と先ほどテーブルに置いた土産の箱を開けた。
「ケーキ~!!!!おいしそ~、ありがと赤ち~ん」
「喜んでもらえて何より。買ってきたもので申し訳ないけど」
それから二人は紫原の手の凝った料理を他愛もない話をしながらゆっくり食べた。赤司が美味しいと言うたびに紫原が見せる笑顔は二人が一緒にバスケをしていた中学時代では決して見ることのなかった顔だった。それを見て愛しく思う赤司もまた、中学時代には見せることのなかった顔を紫原に向けているのだった。
料理を食べ終わった紫原が赤司の顔を伺うように口を開いた。
「赤ちん、俺もう一つほしいものがあるんだけど」
突然の申し出に赤司は頭の上にはてなマークでも出しているような顔をした。そんな赤司の返事は待たず、紫原は「これ」と小さな箱を差し出した。赤司が紫原を見つめると、紫原は少し照れくさそうにこくりと頷いたので、赤司はその箱を開けた。中に入っていたのはシンプルなシルバーリングだった。
「敦...?」
「赤ちん、俺とけっこんしてください」
赤司は文字通り目を丸くして、敦を見返した。
「俺は赤ちんとずっと一緒にいたいけど、赤ちん中学の時ほどじゃないけどいつかどっか行っちゃいそうで。でも男同士だし、だからそれで赤ちんを繋いでおきたいの」
紫原の気持ちを聞いた赤司は壊れたような、それでもとても嬉しそうな笑顔でリングを手に取り言った。
「紙切れなんかよりもよほどリアルで信じられる。目に見える証だね、敦。ありがとう。でも、敦の誕生日なのに僕が貰っていいのか」
紫原は満足そうに微笑んだ。
「い~の、俺は赤ちんの一生貰うんだから」
じゃあ敦の人生は僕のだね、と赤司もまた満足げに微笑み返すのだった。
2013/10/09 HappyBirthday Atsusi