※現代



正午、いつもの本屋で待ち合わせ。待ち合わせには20分前には着くように家を出る主義。電車に揺られて10分、兵助は時間ぴったりに来る奴だから本屋で昨日の本を続きから読んで時間を潰す。本屋で少しずつ少しずつ読んでいくのが、密かな楽しみだったりする。本を読むのにそんなに時間はかからない、けどそれじゃあつまらない。我ながら良い方法を思い付いたと思う。マイルールで、斜め読みは禁止。普段から意識しているつもりはないのに雑誌なんかはすぐ斜め読みしてしまうのだが、心に残る読み方だって大切だと思う。
そしてちょうど区切りのいいところで現れるのが兵助だ。本を閉じて元の場所に戻す。

「今、どこ?」

「四章まで読んだ、デートの最後に秘密がバレるとこ」

「ああ、衝撃的なとこ」

「衝撃だった」

さっきまで読んでいた本は兵助に勧められたもの。兵助にしては少し珍しいジャンルだが、有名な作家だし兵助が気に入っているのでやはり面白い。兵助が来てしまったが正直続きが気になって仕方がない。

「続きは明日、だろ?」

「いや、もう私あれ、帰りに買うから」

「お気に召したようで」

「で?今日はどこ連れてってくれんの?」

今日は兵助が数日前に連れていきたいお店があると言っていたところに行く予定だ。なんとなくの予想はついてるけど。

「豆腐が美味しいお店」

「うん、知ってた」

「まあまあ、聞けよ。豆腐も美味いんだけど、そこ、豆腐とか無農薬の野菜とかでランチ作ってる店なんだよ。三郎、そういうの好きだろ?」

「お前にしては気が利いてるな」

「ひどー」

兵助は美味しい物を見つけた時はいつも一番に教えてくれる(大方、豆腐関係なのはまあ知っての通り)。それで一緒に食べに行って、兵助はとても美味しそうに食べる。普段からあまり表情が豊かではない兵助のこういう時の幸せそうな顔は男ながら可愛らしいと思ってしまう。それだけでも結構腹は張るもんだ。もちろん、兵助の連れていってくれた店は全部美味しかった。豆腐のこれからの大きな可能性も感じられた。でも、一番のご馳走は兵助の笑顔だ、なんてらしくのもないことを思う。
今日のお野菜ランチとやらは大皿に小皿がいくつかあり、そこに種類の違う野菜を使った料理が上品に盛られていた。ご飯は十六穀米だ。

「ん、安いのな。1000円しない」

「びっくりだろ?」

「あんだけ野菜使ってこの値段はありがたいな」

「店の裏に小さな畑あるんだって」

「なるほどな」

「気に入ってもらえた?」

「もちろん」

「よかった」

デザートのカボチャのカップケーキも美味しく完食した私達は店を出てもう一度待ち合わせした本屋に向かうことにした。

「今日は美味しいお店に連れていって貰った礼に、今晩は私が腕を奮って豆腐ハンバーグをご馳走しようかな」

「まじで!?」

豆腐料理にうるさい兵助が、豆腐ハンバーグはどこの店よりも三郎の作るやつが一番美味しいと言ったので私の機嫌が良いときは振る舞ってやるのだ。私も、私の作った豆腐ハンバーグを食べている兵助が一番美味しそうな顔をしていると思う。

「三郎の豆腐ハンバーグは絶品だからな」

「愛情が篭ってますからね」





12.0830

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