先輩が帰ってきた。
忍務の途中で近くに来たから寄ったらしい。今は食堂で土井先生たちと話してるらしい。
僕は食堂へ急ぐ、その間にも鼓動はどんどん速くなる。
だって、だってずっと待ってた、この時を。


4つ上の、久々知兵助先輩。
成績優秀、容姿端麗、とても真面目で先生からも後輩からも信頼されていた。それでいて豆腐のことを語り出すと止まらないなんてお茶目な所もあった。

僕の憧れだった。
先輩と僕は委員会が違っていたからほとんど話したことなんてなかったけれど。
先輩が好きだった。
優秀で、強くて、綺麗で、優しくて、…そんな先輩が。



「久々知先輩、お久しぶりです」
「おー、笹山か。でかくなったなー」
「覚えててくださったんですか?嬉しいです」

満面の笑みで返す。
悟られないように。

「土井先生、先輩と少し話したいんですけどいいですかー?」
「ああ。すまん久々知、つき合ってやってくれ」
「はい、構いませんよ」


食堂を出ていくときに、兵太夫が久々知と接点があったとはなあって土井先生と山田先生が話してた。
ないですよ、接点なんて。


「それにしても、ほんとに大きくなったな笹山。俺より高いんじゃないか?あんなに小さかったのに」
「そりゃもう久々知先輩が卒業して5年経ちますから、僕だって大きくなりますよ」

それもそうだな、と先輩は笑う。
あ、睫毛、長い。

「そういえば、俺に何か用でもあるのか?」
「はい、優秀な久々知先輩に僕のカラクリ見てもらいたくて」
「優秀なんて昔の話だよ。それに俺カラクリのことわからないよ?」
「まあそう言わずに!学園の先生よりもフリーで色々な経験してる人に改善点とか聞いたほうがいいでしょ?あ、部屋ここです」

気を付けて入ってくださいね、と先に先輩が入って僕は後から入って戸を閉める。
すると先輩は急に振り返り、眉をひそめた顔からは少しの殺気が感じられる。

「どういうつもりだ笹山」
「さすがですね先輩。僕の気が先程と違うのに気付いたんですね」
「当たり前だ」

もっとも、僕のは殺気ではないんだけど。


「それに、抵抗しないのは賢いですね」

だってここは僕の部屋。僕の縄張り。


やっぱり先輩は優しい。後輩の頼みを疑いもせず聞いてくれた。きっと普段ならこんな失態はないんだろうけど。相手が後輩だから。
そしてここは僕の部屋。僕は殺気を出しているわけじゃない。だからあなたは逃げないんだ。うれしいです。

大好きです。
優秀で強くて綺麗で、そして優しくて脆くて汚れているあなたが。

あなたの全部を見たいと思っていた。僕の腕の中に閉じ込めて。


さあ愉しみましょう。
逃げられないうちに、なんてあなたは逃げないんだろうけど。

あなたは優秀だけど、何より意外とお人好し。


僕の大好きな、お人好し。







10.0403 拍手ログ

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -