※現パロ




しとり、しとり。

まだ残暑厳しくクーラーの効いた電車にはメイクを治す高校生とかケータイをつつく中学生とか居眠りしているおじさんとか買い物袋を抱えたおばさんとか。

(あのおじさん絶対寝過ごすな。)

あのおじさんが、どこの駅で降りるのか知らないけれど。

各駅停車。しとり、しとり。
駅に止まって誰かが乗ったり、誰かが降りたりするたびに入ってくる雨の匂い。雨の匂いは雨の匂いなのか、それともアスファルトの匂いなのか。一緒に秋の匂いも入ってくる。物悲しい切ない匂い。だから秋は嫌いなんだ。会いたい、なんて思ってしまうだろうが。まったく、全くもって柄にもない。笑ってしまいそうだ。もっとも、ここは車内だからそんなことはしないけど。もともとあんまり笑わないし。
なんて考えてたら目的の駅に着いた。降りなきゃいけない駅の一つ前の駅。外はもう真っ暗だ。びっくりするかなあ。固まりそう。
しとり、しとり。まだ雨は小雨より少ないくらい。



「…………」
「こんばんは、三郎」

インターフォンが五月蝿く鳴り響いた後(ここんちのインターフォンは毎度五月蠅すぎて押すのが躊躇われる)、家の主がだるそうにはいはいどちらさんとドアを開けて、俺を見るなり案の定固まった。何ともいえない、

「間抜け面だな三郎」
「いや…おまっ、なんで」

三郎は珍しくわたわたしている。これは非常に面白い。普段の飄々とした三郎からはなかなか見られない。たまには柄にもないことをしてみるもんだ。

「なんでって、会いたくなった」

中では鍋の美味しそうな匂い。きっと豆腐たっぷりの鍋だ。まったく、お前だって柄にもない。

ざあざあざあ。
外は雨が降っていた。










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秋は誰かに会いたくなります。三郎も会いたくなってつい豆腐たっぷり鍋を、そしたら来たよって話。
10.0929

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