DOGs 15


下敷きにした久しぶりの顔に油断すれば泣きそうになる。耐えなければ。これで、最後のキスだから。

そっと、万感の思いを込めて唇に触れる。ピクリと揺れた体にほんの少し眉をひそめたけれど、それは勝手な感傷だ。万感の思いなんて通じない。アルフレッドにとってはただ不快なだけだろう。
唇を離して身体を起こそうとする。しかし何かに掴まれてあまり起き上がれなかった。何てことない、アルフレッドが服を掴んでいるだけだ。

「おい」

アルフレッドは動かない。ただじっと、信じられないものを見るようにこちらを見つめる。

(驚いてる。…ま、無理ねぇな)

自嘲ぎみに浮かんだ笑みを隠さず、やけくそで思いきり顔を近づけた。目が丸くなった気がするが気にしない。

「俺の味しか、しねーだろ?」

自虐的なアーサーの問いに、アルフレッドの喉がごくりと上下した。

「わかんないよ」

思いがけない掠れた低い声に思わず胸が鳴って顔を赤くした瞬間、頭を強い力で引き寄せられ、唇が重なった。あまりの驚きに思考が止まる。
固まるアーサーは気にせず、その勢いのままアルフレッドの舌が唇を割り入りアーサーを蹂躙する。深いキスなんてもうずっとしていなかったから思わず腰が落ちて、アルフレッドとぶつかった。

「んっ!?」

ゴリ、と固い何かが擦れる。それは確かにアルフレッドの性器でカッと頬が火照った。
アルフレッドが勃ってる。理由不明。


「―――ああ、確かに君のだけだ。…トべそう」


それから恍惚とした声とともにぎゅっと抱きしめられた。もう何が何やら分からない。

「なっ、なっ!」
「お前が一番だって言ってよ」
「、は?」

突然の願い出に合わせてはあと耳元で息が吐かれ、思わず腰に熱がたまった。

「イザベルより何より俺のこと一番愛してるって、俺だけだって、言って」

泣きそうな声だ。そう思った瞬間両方がこすれて、思わずアルフレッドの上に乗っかったまま肩を竦める。

「ふぅっ…!」
「っ…!…アーサー、言って。お願いだから」

あまりの切羽つまった声に顔を離すと、アーサーの下でアルフレッドが顔を真っ赤にして目を潤ませていて、胸がまた一つ鳴った。

「…見ないでよ」

スカイブルーに映るアーサーも同じ表情だ。目の前の人間が好きで好きで仕方ない顔。

ああもう、誤解でもいい。今だけでも、夢を見させて。

「これは、俺の意思だからな」

額をコツリと合わせる。睫毛が触れてくすぐったい。
ただ、言いたい。


「俺はお前が、誰より一番、好きだよ」


もう一度キスする。拒まれることなく自然と絡んだ舌は、甘い気がした。


「好きだ、アーサー」


咄嗟のことに叫び出しそうになって、思わず身体を固くした。
今、信じられないことを聞いたんじゃないか。

「好きなんだ、本当に好き。もうずっと、長い間好きなんだ。ずっとずっと、ずっとずっとずっと、好きで」
「嘘じゃない?」
「嘘なわけないだろ!」
「アル、アルフレッド、好き。おれも好きだ」
「アーサー…っ」

冷えた床の上で強く抱きしめられながら何度も何度もキスする。拒まれない。むしろ望むようにキスしてくれる。
夢みたいだ。アルフレッドが自分を好きだなんて。

「…なあ、でもお前イザベルが好きなんじゃ…」
「は?あり得ないだろ!俺はもうずっと君一筋…ていうか君こそイザベルが好きなんじゃないの?よくデートしてたし」
「はあっ!?なわけないだろばかぁ!あれはお前がイザベルのこと好きだって思ったから、」
「あーもういい、分かったんだぞ」

言葉の途中で頭を引き寄せられ、また身体が密着した。雰囲気のまま言葉は飲み込む。
静かになった空間で、互いの早い心音だけに耳を傾ける。

「…つまり君は、本当に俺だけを好きなんだね」
「う、あ、…うん」
「ならちょっと、我慢の限界なんだけど」

低い声とともにまたゴリゴリ押し当てられたので、何を言わんとしているか分かって顔を赤くした。
セックスは、嫌いじゃない。けれど。

「…っで、でも待て、今日は…」

途端、アルフレッドが置いてかれる犬のような情けない表情を浮かべた。

「あ…ごめん、この前無理矢理したから…」
「ち、違う!そうじゃなくて…」

ぎゅう、と腕をつかむ。否定はするが、理由が理由だからあまりの恥ずかしさにアルフレッドの肩に顔をうずめる。男として、人間として恥ずかしい。
―――でも今日は記念すべき日だから素直になろう。


「…笑わない?」
「笑わないよ」
「…お、俺はその…変態…だから。ずっとお前との、せ、セックス…が、頭から離れなくて……だから、今したらわけ分かんなくなる、から…」


声は消え入りそうに細くなってしまった。恥ずかしくて肩にグリグリ顔を押し付ける。と、突然天地が逆転した。そのまま一歩手前にあったベッドへ投げるように押し倒される。

アルフレッドが被さる。顔を赤くして、それでも肉食獣の表情で笑ったアルフレッドは初めて見るものだ。


「大丈夫だぞ。―――考えられないくらい、ヤり殺したげるから」


あとそういうこと、もう俺以外には言わないでね?

なんつーエロい顔だ、と頬に熱がたまる。それでも今日は自由な両手で、自分なんかに欲情するアルフレッドへの愛しさを噛みしめながら返事のかわりに首に両手を回して力いっぱい抱きしめた。
















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