DOGs 12 |
最近のラブホテルは無人らしく、アーサーがやっと抵抗らしい抵抗ができたのは手際よく部屋を選んだアルフレッドが鍵穴に鍵を差し込んだ辺りだった。 「ちょ、本気かよ!」 「冗談で男とラブホなんて来るもんか」 ギリ、と握る手に力が込められあまりの痛みに顔が歪んだ。その隙に押し込むように部屋へ連れ込まれ、すぐさま壁へ押し付けられすごい力でアルフレッドがアーサーの顔のすぐ隣を殴った。 壊れてしまうんじゃないかという音に思わずごくりと唾を飲み込む。 「――『好きじゃない』んじゃないの?」 冷たいアイスブルーがアーサーを射る。温度のない、この前イザベルと会った時よりもずっと恐ろしい眼だ。 「君は好きじゃない奴ともキスできるのかい?」 「アルフ、」 「なら、俺ともできるね」 ガッと強い力で頬を指で掴まれ一気に緊張した。こんなアルフレッド知らない。何も分からない。ゆっくり顔は近づいてきたが、怖くて指一本動かなかった。 温かくて柔らかな唇が重なる。そうしてぬるりと生暖かいなにがが咥内に侵入して、痺れのような何かが駆け抜けた。 「いやだっ!」 キスはダメだ。自分は酷くてずる賢くて最低最悪で、こんな奴とキスなんてアルフレッドを汚してしまう。する価値なんて欠片もない。 渾身の力で目の前の身体を押してとにかくここから離れようと部屋の中へ逃げる。けれど焦りすぎて外へ逃げようとしなかったのはどうしようもない失敗だった。 ショッキングピンクの趣味の悪い部屋に思わず動きが止まる。首に太い腕が回ったのはその瞬間だった。 「っ!」 「酷いじゃないか、イザベルは良いけど俺は嫌ってわけ?」 嘲るような言葉と共にぐいと顎を持ち上げられ、今度こそキスされた。唇の間を舐められ目を見開いてドンドンと胸を押すがびくともしない。その間もキスは続く。 「ん、んぅ、んーんんー!」 「…口くらい開けなよ」 思わずぷはっと情けない声を出してしまった。焦りすぎてずっと息を止めていたから苦しい。必死で息を整える。 と、しゅるりと真後ろから衣擦れの音がして、間髪入れず視界が真っ暗になった。 「ひっ!?」 「あぁほら、暴れない」 視界が何かで塞がれる。たぶんアルフレッドの制服のネクタイだろう。きゅっと器用にアーサーの目の回りにネクタイを巻いてアルフレッドが笑った。 「なかなかエロくていいじゃないか」 「ばか野郎!早く外せ!」 「はあ?バカはどっちだい。君が今そういうの言える立場じゃないの、分からないの?」 言葉が詰まる。そうだ、このまま首を絞められても何ら不思議ではない。彼は自分に怒っているから、本当に何されるか分からないのだ。 けれど彼がしたのはアーサーのどの予想とも違った。 「っ…!」 首筋に柔らかい感触。それから小さな鈍い痛みがあって、キスされたのだと思った瞬間血液が沸騰しそうになった。 そのまま肩を抱かれて数歩進み、どこかに乱暴に押し倒されうつ伏せになる。たぶんあのピンクのベッドだ。薔薇の微かな匂いがする。 「ア、アルフレッド」 「君の意見は全面却下だから期待しないでくれよ」 くるりと身体を反転させられ、家でしか緩めないネクタイを抜き取られる。抵抗する間もなく腕を頭の上でまとめあげられ多分ベッドヘッドにネクタイでくくりつけられた。 そのまま抵抗できないのを良いことにわざとらしくゆっくりYシャツのボタンを外される。厚い手が腹を撫でて思わず腰が引くが、すぐ固定された。その手つきのいやらしさにあらぬところに熱がたまりそうになり、思わず叫ぶ。 「な、何考えてんだよ!」 「楽しいこと」 アルフレッドが愉しそうに笑った。もし今から殴られるのならろくな抵抗はできないし、…辱しめられるとしても、抵抗できない。 「さぁ、おしおきの時間だぞ」 初めて、アルフレッドを心底恐ろしいと思った。 いっそ酷くしてくれたらいいのにと思う。そうしたらこんな声出さずに、苦痛だけ覚えておけるのに。 「ふぅっ、ぅあぁっ、ひん!」 暖かな粘膜に包まれて自身がはしたなく膨張し続けているのが分かる。ギッギッとあまりの快感に耐えきれず腕を揺らすと軋んで、背徳的な気分になる。 「先走りすごいよ。ぐちゃぐちゃ」 「しゃべ、しゃべんなぁっ!はぁっ、あっ」 「こっちもぐちゃぐちゃだし。さすがジェルだな」 「や、しゃべ、ゆ、指まわさな…で!」 セックスなら人並みにしたことはあるけれど、受身の快感は知らなかった。リードをとられて前を弄られながら触られたことのなかった場所を節くれだった指が抜き差していて、そのうえ視界は遮られている。 「やっと緩くなってきたね」 「ひぁうっ!ゆび、ゆ、」 増えた指がアーサーの中でばらばらに動き、先ほど見つけられた弱い部分を執拗に攻めたり入り口を引っ掻いたりして弱々しく首を振る。気が狂いそうだ。 そっと性器から口が離れ、ねっとりと胸の突起を舐め上げられる。あられもない声を出す自分を殺したくなったが、すぐに口付けられてなにも言えなかった。 口を閉じる元気もない。舌を絡めとられ、苦い味が広がった。自身の先走りだと思うと嫌になる。 送り込まれた唾液は素直に咀下する。だんだん気持ち良さに何も考えられなくなって、気付けば自ら舌を追っていた。 「ふっ、ぅ」 「…ん」 「はぁ、はふ」 一心に首を伸ばし舌を絡める。自分は今、好きな男とキスしている。 「…最っ高にやらしいね、アーサー」 「ふ」 名を呼ばれるのは嬉しいが、唇が離れて名残惜しい。アルフレッドが困ったように耳元で囁く。 「…ごめんね」 かすれた言葉と熱く固い何かが当てられて、それが何か嫌になるほど分かったから思わず身体を固くした。 勃起したんだ。アルフレッドが、アーサーで。 「力、抜いて」 腹を撫でられて力が抜ける。いけない、こんな時なのに、嬉しいなんて。 けれど勢いよく貫かれ、その衝撃に我慢も何もかも真っ白く塗りつぶされた。 「あっ、あー…っ」 貫かれた瞬間全てが快感に染まる。びくびくと腰が揺れ、意識が遠ざかる。自然と涙が溢れた。我慢していたものが一気に流れ出す。 けれど上からも温かな水が降ってきて驚いた。 「あ、る?」 アルフレッドの涙がぱたぱたと頬を濡らし、徐々に中にあったすごい質量が吐き出してもいないのに消える。降ってくる涙は止まりそうもない。 ごめんね、と聞こえた気がして、気付けば手を伸ばそうとしていた。 「気にすんな…笑えよ、アル」 腕はくくられたままで、届くことはなかったけれど。 → 091227 |