DOGs 3


満足したので腕をつかむ。一瞬こわばって少し眉をひそめたが、まあこんなものだろう。この頃は接触を嫌がるきらいがある。

「来い。ソファーで待ってろ」

引っ張ると素直に立ち上がった。前途多難の二人暮らしだな、とアーサーは少しため息混じりに思った。









小さなテーブルに皿を並べる。そうする数に比例して目の前のアルフレッドの顔が嫌そうに歪んだ。…おいしそうに見えないのも、おいしくないのも承知の上だ。

「まずくて食いたくないなら自分でメシ作れるようになれよ」
「…君って何でも器用にこなす奴なのにね」
「人にはな、得手不得手はあるもんなの」

適当に野菜と肉を炒めたものと、コンソメの野菜スープ。まずい。でも食べれたらいいじゃないか。

アルフレッドはいまだ苦い顔をして、けれど諦めたように口に運ぶ。すぐに顔はもっとしかめられた。

「…今度から俺がつくる」
「是非そうしてくれ」

そこからは無言で食事が進む。昔何を話題にしていたか、なんて忘れたので基本的に話題はない。会話はまばらで、視線が交わる機会すら少ない。まあ今はこんなだが学校に行ったら喋るだろうから大丈夫だ。

そうだ、学校といえば。

「今度の懇談は俺が行くからな」
「はっ?」

アルフレッドが目を丸くする。おばさんは言ってなかったようだ。

「お前の懇談だよ。授業参観の前日にある」
「それは分かる。でも何でカークランドが…」
「頼まれたから。何だよ、俺が行ったら何か具合悪いのか」
「悪いね!第一、君には仕事があるだろ」
「休み取るに決まってるだろ。幸い有休は腐るほどあるんだ」
「ジーザス…」

アルフレッドは大袈裟に天を仰いで顔を覆った。そこまで嫌か。
待て、自分なら何故嫌だった?

「―――お前、単位やらないって言われてるな?素行の悪さで」
「…ッ!」
「てことは特別懇談か。ったく、ねちっこいからがんばれよ」
「…誰に聞いた?」
「経験者だ」

アルフレッドが先程とは別の意味で目を丸くする。アーサーは懐かしいなと目を細めた。

「俺の代は荒れててさ、まあ俺の所為なんだけど。だからところ構わずケンカするわ爆竹鳴らすわトイレ破壊するわバイクが廊下に転がるわ」
「…それ、伝説だぞ。バイクが廊下に何台も整然と並べられてたってやつ」
「あー俺が並ばせたんだ。汚く置くんだよ、お前もそう思わねえ?」
「知らない。誰も置いてないもん」
「ああ、そうか。…ま、そういうわけだからお前が嫌がる理由はない。それに、経験者が行ったら心強くないか?」

な、と笑ってもアルフレッドの顔は依然困ったようなままだ。

「…君が、そうする理由はない」

目線が落ちてしまった。いまいち意味は分からないけど子犬が耳を垂らしているようだ。肩も落としていて少し笑える。

「さっき言ったな、お前には預かってもらってるからこその義務がある」
「うん」
「俺にも預かったからこその義務があるんだよ。だから気にすんな。やらなきゃならないことをやるだけだ」

あと、久しぶりの母校やアルフレッドの実態が気になるのは確かだ。しかし次の瞬間、アルフレッドは予想していた顔ではない辛そうな、諦めた顔をした。

「義務なら仕方ないね。…義務なら」
「アル?」
「知ってるとは思うけど、懇談は明後日五時から教室で。どうだいミスター?」
「おい、そんな呼び方…」
「いいだろ、何だって」

突っぱねたような言い方に言葉をなくす。アルフレッドは行儀よく食器を片付けて扉の壊れた部屋に帰った。
打ち解けたかと思えばすぐにこれか。

(…どう接すればうまくいくんだ)

アーサーは頭を抱えたくなった。












091214