大人と子供の境界線って何処だろう?
大人は嫌いだ。上辺だけでものを話すくせに、なんでもかんでも上から目線で。生まれたのが俺より早かっただけだろ、大したことも経験してないくせに偉そうに。年齢さえ重ねればみーんな大人、それ以外は子供っておかしいだろ、俺より楽して、俺よりへらへらして生きてる奴が、年が幾つか違うだけで大人って呼ばれる。そんなの絶対、おかしい。不公平だ。

「うーん…マサキは難しいことを考えるんだね」

俺の話を聞いたヒロトさんは、ゆらりと揺れるコーヒーの煙の向こうで眉を下げてわらった。たぶん、わらったと思う。眼鏡が曇ってわからないけど、困った時ヒロトさんはいつもわらうんだ。だから今だって、きっとそう。
ヒロトさんは数少ない、俺にとって"嫌いじゃない"大人だ。凄い仕事をしてるし、園にいたってことは少なくとも俺と同等の経験をしたってことだから。ヒロトさんには、子供扱いされても仕方ないと思ってる。リュウジさんは駄目だけど。だって秘書っていったって要はヒロトさんの付き添いだろ?それにあの人うるさいし。だからヒロトさんは特別。特別な、大人だ。

「でもねマサキ、大人には大人にしか出来ないことがあるんだよ。ほらお酒とかね」
「お酒だって煙草だってやろうと思ったら俺にだって出来ます」
「いや、煙草はやったら駄目だから。そうだね飲むだけなら今のマサキにだって出来るけど、今のマサキの身体は発達途中だから、お酒を飲んだらボロボロになっちゃうんだよ。その点大人は身体が年数と共にしっかり成長するからお酒が飲めるわけ」

ご丁寧にヒロトさんは保健の教科書並みにきちんとした説明並べてくれたが、俺はそれをふうんの一言で片付けた。別に俺は酒が飲みたいわけでも煙草が吸いたいわけでもないからそれは別に構わない。
俺は大人と子供の境界線が知りたいのだ。リュウジさんや晴矢さんに風介さん、本当はヒロトさんにだって、子供扱いされたくない。年齢なんかで判別されたくない、だって年齢で決められたら、俺は何も出来ないじゃないか。そんなのってない。そんなの、って。


「大人がしてることが出来るから大人になれるんじゃないよ」
「!」
「だからねマサキ、無理して大人にならなくたって良いんだ。マサキの心は身体と同じようにゆっくり成長する。それを実感して初めて、マサキは大人になれるんだよ」


ヒロトさんはそう呟いて俺の頭を柔らかく撫でた。幼子をあやすようなその仕草は、優しくて温かくて、気持ちが良い分、胸が痛い。
違う、ゆっくりなんかじゃ駄目なんだ、今すぐ大人になりたいんだって言いたかった。でもそう言えば、ヒロトさんが困った顔でわらうこともまた、知っていた。
ヒロトさんは狡い大人だ。俺の気持ちに気付いてるくせに、気付いてるからこそ、こんな態度をとって。嫌なら断れば良い、期待させる前に切れば良い、なのに、なのに、こんな優しいことをして。狡猾で残酷で、そのくせ温かくて、だから、離れられない。
そんな狡い人を嫌いになれず、好きなままでいる俺は、悔しいけど、嫌だけど、やっぱりまだ子供なのだ。



【惚れたもん負け】

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池谷さまリクエストのお日様園の誰かに片想いする狩屋、でした!最後まで南雲と悩んだけど南雲は以前書いたのでヒロトで。
あんま切ない感じはないですねごめんなさい…良かったら受け取ってね!返品してもゴミ箱に捨てても構いませんうわぁぁぁ(土下座)