狩屋は俺が好きじゃない。それは彼の態度から明らかであるし、狩屋自身もそう言っている。なのに俺と狩屋は付き合っていて、付き合っているということは、そういった行為を一応はしていることになる。
俺としては酷く気分の悪い関係で。だが以前、どうして俺と付き合おうと思ったのか聞いた時、狩屋はあのお得意の笑みを貼り付け、酷くあっさりそれを教えてくれたことがある。そんなの決まってるじゃん、笑って答えた狩屋に俺の背筋が凍った。

「剣城くんなら、絶対に俺を好きになんてならないから」

それを聞いた時に俺は、この関係を今解消してはならないと思った。こんな考えの奴を野放しにしておけるかと。別に俺は狩屋を恋愛感情を持って好きだと思ったことはないが、それでもこのままにしてはおけなかったのだ。

「……ねぇ剣城くん」
「なんだ」
「剣城くん、最近優しくなった?」

ベッドから細い足と剥き出しの肩を出して狩屋が問い掛けた。風邪を引くからと布団を被せようとしたらそれだよ、と狩屋は不満そうに漏らした。
別にこれぐらいしたって良いだろう、松風が同じことをしていても俺はきっと同じようにする。つまりこれは優しくなった云々ではなく条件反射のようなものだ。もっとも、松風と同じような状況になることはないだろうが。

「普通だろ、これぐらい」
「そう?そっか。……ね、剣城くん」
「なんだよ」
「俺のこと、好きにならないでね」

またか。
すでに何度も言われたことで、動揺することももうあまりない。そうか、と受け流す俺と、それにわらう狩屋で会話は終了する。いつもの流れだ。
いつもなら、そうなる筈だった。

「俺のこと、好きになっちゃ駄目だよ」

狩屋は言い聞かせるように再度そう呟いた。俺は少し苛ついて、なんだよと不機嫌さを滲ませて返事を寄越したが、狩屋はその尖った声に突っ掛かることもせず、やんわりとわらった。お得意の表面的な薄っぺらい笑みでなく、誰かを嘲笑うようなものでなく、何処か寂しげな、それでいて心を掴まれる、微笑だった。
あくまでも優しい、優しい声色で狩屋は告げる。


「だって好きになったら、嫌いになる日が来ちゃうからさ。…俺、俺ね………剣城くんにだけは、嫌われたくないみたいだから」


だから剣城くんは俺のこと好きになんてならないで、そしたら嫌いになることだってないでしょう?


おかしなことを言ってるだろうと狩屋は自嘲してわらった。俺はその声に、言葉に、態度に、堪えきれない何かを感じて、腕の中に狩屋を引き寄せ抱き締めた。
この世界に「好き」と「嫌い」しかなく、また「好き」の終了点に「嫌い」しかないのだとすれば、俺は確かに狩屋を好いてはならないのだろう。
けれど、好き嫌いを遥かに超越した先、胸の内から自然と何かが沸き上がるこの症状を、俺と同じように狩屋も持っているとするならば、その時はこの感情に、もっと違った名前を付けてやらないか。



【このまま堕ちて幸せになろうよ】

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恋や愛を理解出来ないから自分の感情を上手く受け入れられない狩屋とわかっているくせに上手く言葉に出来ないせいで相手に伝えられない剣城
何やら前半がアレな空気ですみません
京マサリクありがとうございました!くろみつさまのみお持ち帰り可です〜