「……………うわ」

完璧にタイミング逃した。校門の前にはすでに完成された女子の塊がふたつ。つーか馬鹿だろあの二人が揃ってたら群がる女子の数も二倍ってことで、なんで今日も二人仲良く揃って登校してんの、今日ぐらい分かれて来いっつーの。あーもう無理、絶対無理、こんな状態で渡しに行くとか無理。
仕方がないから通り過ぎようとしたら狩屋、と呼びかける先輩の声が聞こえた。頼むから空気読んで下さい、その意を込めて俺は振り返り、極上の笑顔で先輩に挨拶をした。おはようございます、朝から大変ですねぇ、なんて。嫌味ったらしい。気持ち悪いな、俺。



「だからごめんって。でも神童が悪いんだぜ?あいつ、一人で囲まれるのが怖いからって俺を巻き添えにしたんだ」
「へぇ。先輩こそ、キャプテンを言い訳にしてるんじゃないですか」

言いながらクリームの入ったメロンパンに俺はかじりつく。この時期は何処を見てもチョコチョコチョコ、俺も全く貰わないわけじゃないから、うんざりしないためにも今日はチョコ系の菓子パンは控えた。いつもならチョココロネとか、チョコの掛かったドーナツとか大好きなんだけど、最近はめっきりメロンパンジャムパンクリームパン餡パンのルーチンだ。

「馬鹿言え、俺だって去年の今日には来年はバレンタイン学校休もうって思ったっつの」
「じゃあ休めば良かったのに」
「お前それ本気で言ってる?」

本気も本気、大マジですけど?俺の返答に先輩はますます顔を不機嫌に歪ませた。なんだよ、機嫌悪いのは俺の方だってのに。あんた自分が誰のもんかわかってんの、ほんと最低、最悪。
すると先輩はぐい、と俺の顔を覗き込んで、ばーか、と同じ台詞を吐いた。馬鹿ばかうるさい馬鹿、等と言い返そうとした口は先輩のそれに塞がれる。
離した唇で再度ばか、と先輩は呟いた。


「俺はな、お前から貰うためだけに、わざわざこの面倒な日に来たんだよ」


目を見開いてる俺の前に右手を差し出して。チョコ、くれるんだろ?傍若無人なまでのその態度と自信は一体何処から湧いてくるんだろう。でも、なんとまぁ情けないことに、鞄の中には女子から貰ったわけでもない、不格好にラッピングされたカップケーキがあるのも事実で。
今はないからまた後で、って言ったらなんだぁと先輩はちょっとがっかりした様子だった。そんな先輩に俺は、来年からは学校来ないで下さいねってお願いする。キャプテンに文句言われたらキャプテンと一緒にサボって下さい。あんたの分は今度から、俺が家まで届けに行くことにしたから。



【君ばかり、私ばかり。】

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バレンタイン蘭マサ。遅くなってすみません!
バレンタインに関係あるか不明ですがモテモテな幼馴染み組が書けて楽しかったです(笑)
沙穂さまのみ持ち帰り可です